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多様性尊重に水差す 同性パートナー扶養 棄却 不利益解消へ国対応急務


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 同性パートナーを持つ元北海道職員が扶養手当支給を求めた訴訟で、札幌地裁は事実婚とは認められないと訴えを退けた。近年、自治体で同性カップルを公認するパートナーシップ制度の導入が広がり、6月にはLGBT理解増進法が成立。同性婚を認めないのは違憲だとする司法判断も重なり多様性尊重の機運が高まるだけに「判決は時代の流れに水を差す」との声が上がる。性的少数者の不利益解消に国の対応は急務だ。
  (26面に関連)
 「力を尽くしたが、やっぱりそういう結論なのか」。判決後の記者会見で、原告の佐々木カヲルさん(54)は言葉を絞り出すようにこう語った。
 札幌地裁判決は、性自認への理解の広がりなどを背景に「一部自治体で柔軟な解釈や運用を試みる例はある」と指摘。だが、民法上の結婚は異性間に限られており、手当支給対象となる事実婚の中に、同性カップルも含まれると解釈しなければならない理由はないと断じた。
 早稲田大の棚村政行教授(家族法)は「少数者の人権を守る最後のとりでとしての司法の役割を放棄するに等しい」と厳しく批判する。
 同性カップルの法的地位を巡っては、複数の裁判例がある。同性婚を認めない民法などの規定は違憲だとして、同性カップルが国に損害賠償を求める訴訟を各地で起こし、これまでに違憲判決が2件、「違憲状態」とした判決が2件、合憲判決が1件という内訳だ。
 同性パートナーを殺害された男性が、事実婚の配偶者に認められる犯罪被害者給付金を不支給とした裁定の取り消しを求めた訴訟では、名古屋地裁が今回と同様の理由で請求を退け、名古屋高裁も控訴を棄却している。
 司法判断が分かれ、立法的措置での救済を求める声は根強いが、国会の議論は停滞している。日本は先進7カ国(G7)で唯一、性的指向や性自認に基づく差別を禁じる国レベルの法令を定めていない。新たに制定されたLGBT理解増進法でも、保守派の意見を入れて「全ての国民が安心して生活できるよう留意する」と多数派に配慮する条項が追加され、かえって差別を助長するとの反発を招いた経緯がある。
 一部の自治体では国に先駆け、同性カップルを事実婚とみなして扶養手当を支給する動きが出始めている。共同通信社の調べでは、少なくとも10都県が「同性パートナーのいる職員に扶養手当を支給できる」と回答した。
 東京都は昨年11月、パートナーシップ宣誓制度を開始したのに合わせ、職員の給与に関する条例を改正。同性パートナーがいる職員も支給対象とした。長野県も今年8月にパートナーシップ届出制度を始め、扶養手当も事実婚と同様の扱いに。担当者は「同性カップルの人たちが暮らしやすい社会を目指す」と強調。岩手県の担当者は「事実婚と同じと解釈している。多様性を認める県の姿勢だ」と説明した。
 棚村教授は「社会も自治体も多様化しているのに国では保守層の政治家が『性的少数者の保護を認めれば日本の伝統的な家族が崩壊する』と非論理的な反論で問題を抑え込んでいる」と指摘。国際社会や国民意識の変化に目を向け議論を深めるべきだと提言した。