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新興国に熱弁響かず ゼレンスキー氏国連演説 対ロ支援、米国内でも異論 武器化 機先 関心低下


新興国に熱弁響かず ゼレンスキー氏国連演説 対ロ支援、米国内でも異論 武器化 機先 関心低下 ウクライナを巡る各国の立場(写真はロイター、アナトリア通信提供・ゲッティなど)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 世界の首脳らが一堂に会する国連総会一般討論でウクライナのゼレンスキー大統領が19日、演説した。ロシアによる侵攻が世界経済や安全保障を脅かしていると熱弁を振るい、グローバルサウスと呼ばれる新興・途上国の共感を得ようと試みた。だが中立を維持しようとする国は多く、議場の反応は冷ややか。大統領選を控える最大支援国の米国でも異論が広がる。 (3面に関連)
 「悪は信用できない」。トレードマークのカーキ色の服に身を包んだゼレンスキー氏は、約15分の演説の大半をロシア批判に費やした。核による脅しや子どもの連れ去り、食料輸出停止―。あらゆることを「武器化」していると非難した。
 昨年の国連総会はビデオ演説だったが、今回は侵攻開始以来初めて自らニューヨークに赴いた。目的の一つがグローバルサウスの取り込みだ。
 手ぶりを交えつつ、ウクライナだけでなく他国もロシアの侵略行為の標的になる可能性があると訴えると、欧米の加盟国の席から拍手が上がった。しかし、最も注目を浴びるバイデン米大統領の登壇から数時間が経過していたこともあり、議場には空席が目立った。
 グローバルサウス側には、欧米がウクライナを特別扱いして重点的に支援し、他の地域の紛争や国際的課題を軽視してきたとの反感も根強い。欧州連合(EU)のスコーグ国連大使は一般討論前の記者会見で、こうした点を考慮し「途上国にとって開発が最重要課題だということに気を配っている」と説明していた。
 だが途上国の外交官はゼレンスキー氏の演説を聴いた後「戦時下にあるときには気候変動や持続可能な開発目標(SDGs)、テロにも無関心になるのだろう」と漏らした。同情をにじませながらも冷淡だった。19日の一般討論で最初に登壇したブラジルのルラ大統領は、ゼレンスキー氏の機先を制するかのように「対話に基づく解決策でなければ長続きしない」と外交による事態打開を求めた。南アフリカのラマポーザ大統領も「対話実現のためあらゆる手段を尽くす必要がある」と強調。グローバルサウスの代表格を自任する両国が足並みをそろえた。
 ウクライナ情勢自体に触れない国もある中、支援の継続を訴えたのはバイデン氏だった。「ウクライナの分割を許して、他の国の独立が守られるのか」。ルラ氏に続いた演説で各国首脳にこう迫った上で、米国は主権や領土保全の尊重をうたう国連憲章を支えていくと主張した。
 ロシアによる侵攻開始から1年7カ月。米国や各国が提供したウクライナへの防衛支援は、総額760億ドル(約11兆2500億円)を超す。岸田文雄首相は19日の演説で「ロシアが国際法を踏みにじっている」と非難したが、米国の同盟・友好国には財政負担がのしかかる。バイデン氏の呼びかけとは裏腹に、これまでの結束にほころびが生じるとの懸念は深まる。
 米国内の世論も割れている。CNNテレビの7月の調査で「もっと支援すべきだ」との回答は48%。昨年2月の侵攻直後の62%と比べれば関心の低下は鮮明だ。野党共和党の保守強硬派はインフレ沈静化や国境対策に予算を回すべきだと批判を強める。来年11月には大統領選が控えており、米国の支援の行方も不透明だ。(ニューヨーク共同)