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<島人の目>NHKの怠慢 仲宗根 雅則


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 ロンドンを拠点にする有料日本語放送局JSTVが、30年以上続いたサービスを終了すると発表した。JSTVはNHK傘下のNHKコスモメディアヨーロッパ所有の放送局。ヨーロッパ、北アフリカ、中東、ロシアを含む中央アジア地域の60を超える国に住む日本人と、日本語を学んだり日本に関心のあったりする域内の外国人に日本語放送を提供し、多くの人々のよりどころともなってきたメディアだ。NHKが重要な使命を忘れて突然放送を打ち切ると宣言した真意は何だろう。

 世界は日本ブームである。その大半は日本の漫画&アニメの力で引き起こされた。世界中の多くの若者が日本の漫画&アニメを介して日本文化に興味を持ち、日本語を習ったり、日本を実際に訪ねたりしてさらに日本のファンになってくれている。それらの若者がそれぞれの国で頼りにし、親しみ、勉強にも利用する媒体のひとつでもあるのが、やはりJSTVなのだ。彼らのためにも放送打ち切りは遺憾だ。

 JSTVは突然のサービス停止の理由として「加入世帯数の減少と放送を取り巻く環境の変化」を挙げている。要するにインターネットに負けて退散するということなのだろう。だがテレビ放送がインターネットに押されて呻吟(しんぎん)している今こそ、NHKはJSTVを支えて、ネットという便利だが危険性も高い媒体に対抗し、補正し、あるいは共生しつつ公に奉仕する道を探るべきではないか。

 1990年に放送を開始し、欧州を筆頭にする広大な地域をカバーする日本語放送の必要性は、2023年の今はもっと、さらに高まっている。断じてその逆ではない。メディアを主導するNHKが、昨今の日本のトレンドである危うい内向き志向に逆らうどころか、むしろそれにのみ込まれてしまっているらしいのは気がかりである。
(イタリア在、TVディレクター)