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原発処理水放出1カ月 中国、外交攻勢は不発 圧力影響 水産以外も


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 【北京共同】東京電力福島第1原発処理水の海洋放出開始から24日で1カ月。処理水を「核汚染水」と呼ぶ中国はこの間、日本を非難する国際世論の形成を狙ったが外交攻勢は不発に終わった。日本産水産物禁輸など日本への「経済的威圧」(米国のエマニュエル駐日大使)が続く中、日本政府は交流サイトなどを通じ処理水に関する科学的な情報発信を強化している。
 海洋放出から2週間後の9月6日。李強首相はインドネシアで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日中韓)首脳会議で「核汚染水は世界の生態環境と人々の健康に関わる」と主張し日本に対応を迫った。だが同調する動きは広がらず、中国はその後の東アジアサミットや20カ国・地域(G20)首脳会議、国連総会で処理水を取り上げなかった。放出反対を表明したのはベネズエラやソロモン諸島など少数。「中国にとって誤算だったに違いない」と外交筋は指摘する。
 それでも中国は強硬姿勢を崩さず、日本産水産物の全面輸入停止を続行。中国が8月に日本から輸入した水産物総額は前年同月比67%減と大きく落ち込み、9月も日本水産業への打撃が予想される。
 対日圧力の影響は水産物以外にも波及。日本政府関係者によると、中国の一部地域で海洋由来の成分を含む日本のスナック菓子や麺つゆの物流が滞った事例が確認された。地方の税関当局が恣意(しい)的判断で商品を留め置くなどした可能性がある。
 小売店が日本から輸入した日用品の仕入れを手控えたり、中国のSNSで影響力を持つ「インフルエンサー」が日本の化粧品の紹介を断ったりするケースも。中国の日本料理店は客足が遠のき、北京の海鮮市場で輸入水産物を取り扱う業者は看板に記していた「日本料理食材」の文言を「火鍋食材」に書き換えた。
 中国で日本を敬遠する動きが拡大する中、在中国日本大使館は短文投稿サイト、微博(ウェイボ)で、原発周辺海域での放射性物質モニタリング結果などの情報を中国語で発信。アクセスが1千万件を超えたこともある。日本政府関係者は「科学的根拠に基づき処理水の安全性を示していくしかない」と強調した。
北京の海鮮市場で輸入水産物を扱う店に掲げられた看板。8月にあった日本料理を意味する「日料」の文字(上)は「火鍋」に書き換えられていた