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仏軍ニジェール撤収へ 大使も帰国 年内、ロシア接近懸念 「おまえが嫌い」住民激怒 政変2カ月 高まる反仏、軍政に期待


仏軍ニジェール撤収へ 大使も帰国 年内、ロシア接近懸念 「おまえが嫌い」住民激怒 政変2カ月 高まる反仏、軍政に期待 22日、ニジェール首都ニアメーで「フランスはいらない」とシュプレヒコールを上げる反仏デモ参加の女性ら (中野智明氏撮影・共同)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 【パリ共同】フランスのマクロン大統領は24日、7月にクーデターが起きた西アフリカ・ニジェールから駐留軍を撤収させると発表した。今後数週間から数カ月の間に手続きを進め、年内に完全撤収する方針。大使や外交官も直ちに帰国させるとした。フランスメディアとのインタビューで語った。旧宗主国として長年アフリカに大きな影響力を維持し続けてきたフランスの対アフリカ政策にとって大きな打撃となる。軍事政権がフランスの代わりにロシアに接近することへの警戒が欧米諸国で強まりそうだ。
 マクロン氏は「ニジェール軍政はもはやテロとの戦いを望んでいない。軍事協力は終わりだ」と強調した。
 ニジェールではクーデター後、反フランス感情が強まり、フランス軍の撤収などを求めるデモが繰り返し行われた。軍政による撤収圧力も強まっていたが、軍政を認めていないフランスは拒否し続けていた。
 ルモンド紙によると、ニジェールには現在、首都ニアメー、首都北方のウアラム、隣国マリ国境近くのアヨルに計約1500人のフランス軍部隊が駐留する。
 マリとブルキナファソでもニジェールに先立ち、クーデターでフランス部隊が撤収に追い込まれていた。マリなどは、アフリカの資源に関心を持つロシアの民間軍事会社ワグネルと軍事面で蜜月関係を構築。ニジェールの軍政もワグネルに協力を求めたと報じられ米国務省も注視している。
22日、ニジェール首都ニアメーで「フランスはいらない」とシュプレヒコールを上げる反仏デモ参加の女性ら (中野智明氏撮影・共同)
 「おまえらのことが大嫌いなんだ」。駐留フランス軍の基地前に集まった住民千人ほどが、興奮して叫んだ。ニジェールで7月26日にクーデターが起きてから2カ月。米欧や周辺国は軍事政権に圧力をかけて権力放棄を求めるが、首都ニアメーでは軍政への期待が強い。背景にあるのは、旧宗主国フランスへのぬぐえない反感だ。軍政からの圧力もあり、マクロン仏大統領は24日、駐留仏軍の年内撤収方針を発表した。
 反仏デモはクーデター以来、頻繁に発生。9月下旬に取材した日の参加者らは「軍政はフランスを追い出そうとしている」と、クーデター支持の理由を説明した。中には、木材で作ったおもちゃの小銃を構える少年(14)の姿も。「本物ならばマクロンを撃ってやるところだ」と息巻いた。
 国内情勢に詳しい地元アブドゥ・ムムニ大のスーレイ・アドジ教授(政治学)は、住民の反仏感情は近年、拡大したと説明した上で「中国進出の影響が一因」とみる。
 中国は2010年代にニジェールへの関与を本格化。首都では中国の主導で道路や病院などのインフラ整備が一気に進んだ。中国への信頼を高めた半面、1960年の独立後もフランスに依存しながら世界最貧国の一つから抜け出せなかった国民は「貧困の諸悪の根源はフランス政財界の搾取だったとの思いを募らせた」(スーレイ教授)。
 西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は制裁の一環でニジェールとの国境封鎖を加盟国に指示。物流が滞るが、住民の生活は決定的な打撃を受けていない。産油国のニジェールではエネルギーの“地産地消”が容易なのが要因の一つだ。
 首都のガソリン価格は1リットル670CFAフラン(約160円)ほど。給油所店員のウスモナ・バラゲさん(23)は「クーデターの前後で価格は変わらず、フランスやその仲間たちの嫌がらせの影響は受けていない」。隣国ナイジェリアは送電を止めたが、電力供給が不安定なニジェールでは自家発電機が普及。国産液体燃料を使った個別発電でしのげているのが現状だ。
 中心部の市場は野菜が山積みで活況を呈していた。多くは国産だがナイジェリア産のタマネギやニンジンも並ぶ。野菜販売業の男性(21)は「隣国の農家も売れなければ困るので、入手は難しくない」と述べ、迂回(うかい)ルートの存在を示唆した。
 一方、主食の米を販売するムーム・カイクさん(26)の表情は暗い。インドや中国からの輸入頼りだが、周辺国の港が使えず供給が絶えた。「クーデター前の備蓄が底を突けば混乱しかねない」と不安を口にした。(ニアメー共同=菊池太典)