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<表層深層>なお遠い「最終解決」 水俣病 全原告認定 恒久的救済求める声


<表層深層>なお遠い「最終解決」 水俣病 全原告認定 恒久的救済求める声 水俣病特措法の救済対象地域
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 水俣病特別措置法の救済策の是非が問われた訴訟で、大阪地裁は27日、原告128人全員の賠償請求を認めた。特措法以前も「救済」措置を講じながら、対象から漏れ落ちる被害者の存在が指摘されてきた経緯があり、判決は今なお被害の全容が解明できていない実態と最終解決の遠さを浮き彫りにした。支援者らは恒久的な救済システム導入を強く求めている。 (3面に関連)
 「勝訴判決の日を指折り数えて待っていた。素晴らしい道しるべだ」。鹿児島県出身の原告前田芳枝さん(74)は判決後の記者会見でうれし涙を浮かべた。今後、熊本、新潟、東京の3地裁で予定される同種訴訟の判決でも「完全勝訴」が続くのではと期待を寄せる。
 特措法の救済策は、熊本、鹿児島両県に挟まれた不知火海(八代海)か新潟県の阿賀野川でメチル水銀に汚染された魚を多く食べ、手足の末端感覚障害がある人が対象。だが申請するには、3県の7市3町に1968年(新潟は65年)までに1年以上住んでいたことや、69年11月末(同66年11月末)以前に生まれたことが条件とされた。
 大阪地裁判決はこの線引きにノーを突き付けた。「魚介類を継続的に多食したと認められれば、水俣病を発症し得る程度にメチル水銀を摂取したと推認するのが合理的」。特措法の対象外とされた人を司法が患者と認定したのは初めてで、報道陣に囲まれた伊藤信太郎環境相は硬い表情で「判決を精査していない」「関係者と協議したい」と繰り返した。
 水俣病を巡っては、95年に当時の村山富市政権が一時金260万円を柱とした政治決着に踏み切った。一方で受け入れを拒んだ関西地方の被害者が提起した訴訟は続き、2004年、最高裁は行政基準よりも幅広く被害を認定。国と熊本県の責任が確定した。
 だが国が認定基準を見直す動きはない。この状況を受けて09年に議員立法で成立したのが特措法だ。「あたう限り(可能な限り)の救済」をうたい、対象者を広げた2度目の政治決着のはずだったが、再び「未救済者」が生まれた。
 「大阪訴訟」での敗訴を受けても環境省幹部は、特措法について「基準は厳しくなく『あたう限りの救済』をした」と強調する。「地裁の判決であり、まだ遠い話」と話し、救済対象や基準の見直しについては、慎重な姿勢を崩さなかった。
 一方で弁護団は「裁判をしていない被害者も救済される恒久的な救済システム」の導入の必要性を改めて訴え、被害者支援活動の最終的な目標にすると宣言した。
 それには被害者との自覚がない人の調査も急務だ。「不知火海沿岸を中心にまだいるはず」。水俣市の元チッソ社員山下善寛さん(83)は、自身にも手足のしびれなど水俣病特有の症状があるが、患者として認められていない。
 立教大の淡路剛久名誉教授(環境法)は「高齢化が進み『これ以上待てない』という被害者もいるだろう。今回の判決を踏まえて国は大規模調査を実施し、特措法に代わる救済措置の必要性を議論すべきだ」と話した。