有料

トルコ支援、アゼル優位に ナゴルノカラバフ紛争決着へ アルメニアは欧米接近


トルコ支援、アゼル優位に ナゴルノカラバフ紛争決着へ アルメニアは欧米接近 アゼルバイジャン・ナゴルノカラバフ、アルメニアなど
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 アルメニアとアゼルバイジャンの間で30年以上続いてきたナゴルノカラバフ紛争がアゼルバイジャンの全面勝利で決着する見通しになった。トルコとの関係を強化し国力を高めたアゼルバイジャンに対し、安全保障や経済をロシアに頼ったアルメニアは3年前の大規模衝突敗北が響き、係争地放棄に追い込まれた。ロシアに不満なアルメニアの欧米接近は決定的とみられ、ロシアの新たな失地となりかねない。

静観

 「わが国はたった1日で主権を回復した」。アゼルバイジャン軍が「対テロ作戦」を名目にナゴルノカラバフを攻撃し、翌日全面降伏に追い込んだ今月20日の国民向け演説でアリエフ大統領は誇らしげに宣言した。

 双方に6500人超の死者が出た2020年の大規模衝突ではアゼルバイジャンがナゴルノカラバフと後ろ盾アルメニアの軍を圧倒、係争地南部や周辺のアルメニア占領地を奪還した。今回はアルメニアが静観し、「ナゴルノカラバフ共和国」を自称するアルメニア系住民の行政府は孤立。武装解除に応じ、28日に年内解散を発表した。

 近年のアゼルバイジャンは原油や天然ガス輸出で経済発展が続く。21年の国内総生産(GDP)も国防費もアルメニアの約4倍だ。同じくイスラム教徒が多数のトルコと軍事的にも関係を深めた。20年の衝突ではトルコやイスラエル製の攻撃用無人機を駆使してアルメニア側を打ち破った。

 この時ナゴルノカラバフとアルメニアの間に残された唯一の陸路「ラチン回廊」は停戦を仲介したロシアの平和維持部隊が管理する。だがアルメニアは昨年末からアゼルバイジャンが通行を妨害し物資が届かないと批判。アルメニアのパシニャン首相はロシアに何度も対応を求めたが具体的行動はなかった。

信念

 ウクライナ侵攻で手いっぱいのロシアに、対ロ制裁に加わらずプーチン大統領と良好な関係を保つエルドアン大統領のトルコや友好国アゼルバイジャンと事を構える気はなかった。アルメニアの親ロ政権を18年の民主化デモで倒し政権に就いたパシニャン氏とプーチン氏の不仲も指摘される。

 アルメニアではナゴルノカラバフ出身のコチャリャン元大統領や後継者サルキシャン元大統領が係争地死守を唱え、ロシアの軍事支援を背景に長期政権を握ってきた。しかし紛争で国外からの投資は伸びず、若い世代を中心に紛争解決を望む声も増えているとされる。

 ナゴルノカラバフ紛争が続く限り対ロ依存から逃れることはできない―。今回軍を動かさなかったパシニャン氏にはこうした信念があった。

 アゼルバイジャンとの平和条約による紛争決着を目指し、10月5日に欧州連合(EU)の仲介でアリエフ氏との会談に臨む。

 アルメニアは米軍との合同演習や、プーチン氏に逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC)加盟推進など「ロシア離れ」を加速。ロシアのペスコフ大統領報道官は「アルメニアには資源を安価に供給し経済を支えている」と強調、強くけん制した。

(モスクワ共同=佐藤親賢)