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モハンマディさんノーベル平和賞 女性抑圧 世界中で 被害、サイバー空間にも


モハンマディさんノーベル平和賞 女性抑圧 世界中で 被害、サイバー空間にも 女性の権利に関する会議に出席するナルゲス・モハンマディさん(中央)=2007年8月、テヘラン(AP=共同)
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 ノーベル平和賞にイラン人の女性人権活動家ナルゲス・モハンマディさん(51)が選ばれた。ノーベル賞委員会は平和賞授与理由として「女性への抑圧との闘い」を挙げた。女性の権利を巡っては、性被害を告発する「#MeToo」運動が先進国を中心に広がるなど、近年幅広い注目を集めている。しかし世界では児童婚や教育機会の不平等といった課題が山積。復讐(ふくしゅう)目的での性的画像のインターネット投稿など、被害はサイバー空間にも及ぶ。

 国連児童基金(ユニセフ)によると、世界では毎年1千万人以上の少女や女児が18歳未満で結婚する「児童婚」を強いられている。アフリカや南アジアなどで特に顕著だ。児童婚を強いられた少女は教育を受ける機会が奪われるほか、家庭内暴力を経験する可能性が高いという。早期の妊娠による母体へのリスクもあり、対策が急務だ。

 交際・結婚相手からの暴力も問題だ。世界保健機関(WHO)によると、世界の15~49歳の女性の3割近くが暴力被害を受けている。新型コロナウイルスの流行で外出制限が敷かれた際は、女性へのドメスティックバイオレンス(DV)が急増したとも報告される。

 アフガニスタンではイスラム主義組織タリバン暫定政権が日本の中学・高校に当たる女子の中等教育を全面再開せず、大学教育も停止。非政府組織(NGO)などでの女性の出勤も禁じた。

 近年はサイバー空間での被害も目立つ。裸の写真などをネットに載せるリベンジポルノの被害者は、日本では9割が女性。女性アスリートへの性的な意図を持った撮影や、画像の拡散も相次いで立件されている。

 国連は男女平等を基本的人権の基礎と位置づけ、貧困の削減や健全な社会づくりに不可欠だとする。さまざまな分野で女性の参画や地位向上を促しているが、実現までの道のりは長い。


弾圧に抵抗、不屈の心

 イラン当局の弾圧に抵抗し、決して諦めない不屈の精神の持ち主だ。家族、自由、仕事―。大切なものを失っても、刑務所から声を上げ続けている。米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューに「罰せられれば罰せられるほど、奪われれば奪われるほど、民主主義と自由を実現するまで闘う決意がさらに固まる」と語っている。

 1972年、イラン北西部ザンジャンで生まれた。79年のイラン革命後、活動家のおじといとこが逮捕された。9歳の時にいとこが処刑された際、母親が突き刺すような叫び声を上げたことが強烈な印象を残し、生涯にわたる死刑反対の原動力となった。

 北西部ガズビンのイマーム・ホメイニ大で核物理学を専攻。2003年にノーベル平和賞を受賞したイランの人権活動家シリン・エバディさんの人権擁護センターで働いた。

 拘束歴は13回に及んだ。現在は反国家的なプロパガンダを広めた罪で禁錮刑を受け、テヘランの刑務所で収監されている。

 イランで昨年9月に始まった髪を隠すヘジャブ(スカーフ)着用に抗議するデモに対しては、家族が投稿しているインスタグラムを通じて、積極的に支持を表明した。デモの契機となった女性の死から1年となった9月16日には、刑務所でヘジャブに火を付けた。

 夫も人権活動家で双子と共にフランスに亡命している。51歳。

 (テヘラン共同=渡会五月)