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布に咲け 古里の桜 富岡の小野さん 草木染「名産品に」 福島民報 提供


布に咲け 古里の桜 富岡の小野さん 草木染「名産品に」 福島民報 提供 桜の染め物で地域を盛り上げたいと話す小野さん
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 富岡町夜の森地区で藍染めと草木染の工房を営む小野耕一さん(75)は、町のシンボルの桜の枝を使い、桜色の草木染に挑戦している。夜の森の桜の色合いに近づけようと4年前から取り組んでいる。東京電力福島第1原発事故に伴う特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が解除されてから10月1日で半年。帰還した住民は少なく、復興への歩みは途上だ。小野さんは「必ず完成させる。新たな名産品にしたい」と盛り上げを誓う。
 工房の作業場で鍋に桜の枝を入れ、じっくりと煮出す。その作業を4、5回繰り返す。材料の枝は、町が夜の森地区の桜を剪定(せんてい)したものを集めたり、工房敷地内の木から採取したりしている。
 草木染で桜色を出すには熟練の技術が必要だという。色素を抽出するために枝を何度も煮出し、微妙な温度管理も重要になる。子どもの頃から親しんできた鮮やかな桜色を出したい―。元町職員の小野さんは東京の染め物職人から桜の草木染の方法について助言を受け、挑戦している。煮出した染料は赤みがやや強く、満足できる色合いに到達していないが、諦めの気持ちは一切ない。
 完成すればハンカチなどを染めて売り出し、売上金の一部を地元の桜並木の保全管理に役立てることを検討している。
 原発事故前、夜の森の桜を使った草木染が行われていたが、住民の避難に伴い、途絶えた。夜の森地区で生まれ育った小野さんは、地域のために桜の草木染の復活を心に決めた。「住民が愛着を持てるはず。何年かかってもやり遂げたい」と話す。
 2012(平成24)年、避難先の郡山市で藍染め体験教室に参加して、染め物に夢中になった。避難指示が解除された今年4月以降、平日に富岡町で生活しながら工房を運営している。
 夜の森地区を含む復興拠点に住所があるのは1160世帯2564人。ただ、帰還したのは52世帯78人とまだ少ない。「桜の染め物を町民の絆を紡ぐきっかけにしたい」。以前のにぎわいを取り戻すのが願いだ。
桜の染め物で地域を盛り上げたいと話す小野さん