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「監獄」の人道危機 深刻 ガザ情勢 完全封鎖で被害拡大懸念


「監獄」の人道危機 深刻 ガザ情勢 完全封鎖で被害拡大懸念 11日、イスラエル軍による攻撃で負傷した女の子を抱きかかえる男性=パレスチナ自治区ガザ南部(ロイター=共同)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 イスラエルが、戦闘中のイスラム組織ハマスの実効支配下にあるパレスチナ自治区ガザを「完全封鎖」し、苛烈な空爆を加えている。以前からイスラエルに境界を封鎖され「天井のない監獄」と呼ばれるガザの人道危機は深刻化の一途だ。イスラエル軍が地上侵攻に踏み切れば民間の被害拡大は必至で、懸念が高まっている。
 「(ガザの)電気や食料、燃料を遮断する」。ハマスによる想定外の奇襲を受けた2日後の9日、イスラエルのガラント国防相が宣言した。ガザ唯一の発電所は燃料が切れ、11日に停止した。
 ガザは地中海沿いの細長い地区で、福岡市よりやや広い約365平方キロに、50万人多い約216万人が暮らす密集地だ。1967年の第3次中東戦争で占領したイスラエルが2005年に撤退し、07年にハマスが武力制圧した。
 これまでもハマスや別の過激派とイスラエル軍との衝突が繰り返し発生。住民の貧困や失業は深刻で、ハマスへの不満も強まっていた。ロシアのウクライナ侵攻の影響で国際社会の援助が減ったことも、人道危機に拍車をかけた。
 ガザ住民は、ハマス奇襲後のイスラエルの報復攻撃は「過去にない」ほど大規模だと口をそろえる。中東の衛星テレビは連夜、電気がなく暗闇に包まれた街中で建物から炎や煙が上がる空爆の様子を伝えている。
 ガザ南部のエジプト国境にある検問所も10日、周辺に空爆を受け、業務に影響が出ている。住民は閉じ込められた状態だ。国連によると戦闘で33万人超が避難を強いられ、うち3分の2が国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)運営の学校に身を寄せている。
 子どもを抱え避難した女性ハナン・ハララさん(41)は「携帯電話が充電できずニュースも追えない。水も止まった」と不安げに話す。農業ヒサム・アタルさん(30)は「空爆を逃れても餓死してしまう」と訴えた。
 ターク国連人権高等弁務官は10日「民間人の命を危険にさらす封鎖は国際人道法で禁じられている」とイスラエルを批判。ガザ攻撃で住宅や学校、国連機関にも被害が出ていると語った。ハマス側にも拘束中の民間人の即時解放を求めた。
 ただハマスの奇襲で多数の死者を出したイスラエルが報復の手を緩める見込みはない。イスラエル軍は14年7~8月、ガザで地上侵攻を含む作戦を行い、ガザで約2250人、イスラエル側で約70人が死亡した。今回、大規模な地上侵攻は不可避の情勢で、さらなる被害が危惧される。
 (カイロ共同=吉田昌樹)
11日、イスラエル軍による攻撃で負傷した女の子を抱きかかえる男性=パレスチナ自治区ガザ南部(ロイター=共同)