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大国の「二重基準」に翻弄 安保理無力、広がる失望


大国の「二重基準」に翻弄 安保理無力、広がる失望 米中ロによる最近の主な拒否権行使や反対(写真はロイター)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 国連安全保障理事会で18日、常任理事国の米国がパレスチナ自治区ガザ情勢に関する決議案に拒否権を行使した。ロシアのウクライナ侵攻での拒否権を非難しながら、地上侵攻を視野に入れるイスラエルを擁護するダブルスタンダードに各国は失望を隠さない。安保理は再び大国の思惑に翻弄(ほんろう)され、人道危機に直面するガザへの支援の呼びかけすら許されなかった。
 「共に行動することは不可能になっている」。今月の議長国ブラジルのフランサ・ダネセ国連大使は決議案の否決後、肩を落とした。「国際平和と安全の維持に主要な責任を負う」(国連憲章)安保理の機能不全を認め「他の当事者の努力が実ることを願う」と付け加えるしかなかった。
 ブラジルは13日に決議案を提示し、採択を目指してきた。ガザの人道状況の改善に焦点を当て、当初案にあった「停戦」要請を戦闘の「一時停止」に後退させ、イスラエルの名指しを極力避けた。事実上「骨抜き」(外交筋)にしてまで、イスラエル支持の米国の理解を得ようと腐心した。
 理事国15カ国のうち日仏など12カ国の賛成を得たものの、米国の反対で数日間の交渉は水泡に帰した。米国と歩調を合わせることが多いフランスのドリビエール国連大使も「ガザ市民に必需品を届ける機会を失ってしまった」と落胆した。
 安保理では16日にもロシアが停戦を要請する決議案を提出し否決された。米国や英国、日本はイスラエルを攻撃したイスラム組織ハマスを名指しで追及していないなどとして反対に回った。
 パレスチナのマンスール国連大使は18日の会合で、17日のガザの病院爆発を念頭に「2日前に停戦を呼びかけていれば数百人の命が助かっていたかもしれない」と無念さを口にした。ハマスを強く非難するブラジル決議案まで拒否権で葬った米国に「(ガザでの)惨事に責任を負う」と語気を強めた。
 イスラエルが「完全封鎖」するガザの人道危機は日ごとに厳しさを増し、食料や水、医薬品の不足は深刻だ。戦闘を止められない国際社会に対し、ガザ市民の怒りは沸騰する。無職ナビル・シャヒーンさん(42)は「国連に正義はない」と憤り、米国を「悪魔」とののしった。
 米国はなぜ拒否権行使を強行したのか。トーマスグリーンフィールド国連大使は「イスラエルの自衛権」への言及がないことを理由に挙げた。だが中国の張軍国連大使は、米国がこれまで反対を表明していなかったとし、決議案否決は「信じ難い」と非難した。
 「イスラエルが批判にさらされる中で、米国は決議案を支持できなかったのではないか」。シンクタンク「国際危機グループ」で国連を担当するリチャード・ゴーワン氏は病院爆発が判断に影響した可能性を指摘する。
 米国はこれまでもイスラエルを非難する決議案が提出されるたびに、拒否権を使ってきた。米国ではユダヤ系団体の政治的影響力が強く、資金力も豊富だ。イスラエルを支持するキリスト教右派が一大勢力という国内事情が背景にある。
 「偽善とダブルスタンダードを目の当たりにした。米国は解決策を望まなかった」。ロシアのネベンジャ国連大使は安保理会合でこう主張した。ウクライナ侵攻の議論から攻守が逆転した。
 (ニューヨーク、カイロ共同=稲葉俊之、吉田昌樹)