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人質 水面下で続く駆け引き ハマス、停戦交渉に最大限利用


人質 水面下で続く駆け引き ハマス、停戦交渉に最大限利用 解放され、パレスチナ自治区ガザからイスラエルに戻る女性(右)と娘(左)=20日(イスラエル政府提供、AP=共同)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが20日、人質2人の解放を突然発表した。イスラエル軍のガザ地上侵攻は秒読み段階との指摘もある中、人質を巡り水面下で駆け引きが続いていることが明らかに。当初の見立てより侵攻開始が遅れている背景の一つとみられ、ハマスは停戦交渉などで約200人とされる人質を最大限利用する考えだ。

米欧が圧力

 暗闇の中で、車のヘッドライトが人質の憔悴(しょうすい)した表情を照らし出した。ハマスは引き渡しの様子を撮影した動画を交流サイト(SNS)で公開。赤十字国際委員会(ICRC)関係者らに付き添われた母親(59)と娘(17)は、重い足取りで迎えの車に向かった。

 2人は米国籍を持ち、親族に会うためイスラエルを訪問中だった7日、ハマスの奇襲に遭遇し拉致された。

 今回の解放にはハマスとパイプを持つカタールが仲介役を果たした。首都ドーハにはハマスの事務所があり、指導者のハニヤ氏が活動拠点を構える。ハマス報道官は声明で「カタールの尽力に応え、人道的見地から解放した」と主張した。

 イスラエル軍は12日、ガザ北部の住民に24時間以内の退避を通告。過去最多の36万人の予備役を招集し、地上侵攻は間近との観測が広がった。準備は進んでいると説明するものの、予想よりも遅れている。ネックになっているのが、安否が懸念される人質の存在だ。

 軍によると、人質のうち20人超が18歳未満の子どもだ。米欧を中心に二重国籍者も多い。米ブルームバーグ通信によると、米欧各国は自国籍を持つ市民を解放する時間を稼ぐため、イスラエルに地上侵攻の開始を引き延ばすよう圧力をかけているという。

取扱説明書

 イスラエル大統領府は15日、ハマス戦闘員の遺体から回収したとする人質の「取扱説明書」の内容を公表した。それによると、攻撃を避ける「人間の盾」として使い、必要に応じて殺害するよう指示されていた。

 シンクタンク「欧州外交評議会」のヒュー・ラバット上級政策フェローは、ハマスが停戦を呼びかけるための「交渉の切り札」として、人質を使うと分析。ペトレアス元米中央情報局(CIA)長官は英BBC放送に「(断続的に解放することで)地上侵攻を遅らせようとする策略の可能性もある」と指摘した。

 バイデン米大統領は「人質解放に向けた努力を続ける」と改めて表明。一方、ブリンケン国務長官は「即時に無条件」での解放を求め、ハマスとの取引に否定的な考えを示す。「人質問題は本当に最重要事項だ」。イスラエル軍当局者は取材にこう強調した。

(エルサレム、東京共同=岡田隆司、森脇江介)