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ハマス支持厚く 泥沼化も ガザ情勢 地上侵攻、市民の憎悪増幅 弱み 抵抗運動 憎悪


ハマス支持厚く 泥沼化も ガザ情勢 地上侵攻、市民の憎悪増幅 弱み 抵抗運動 憎悪 イスラエル軍の空爆で負傷した子どもを運ぶパレスチナ人男性=26日、ガザ地区南部ハンユニス(ロイター=共同)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザの地上侵攻を巡り、後ろ盾の米国が先延ばしや再考を促したもようだ。イスラム組織ハマスが拘束する人質を含め民間人を巻き込むリスクが極めて高く、戦闘の泥沼化を懸念。イスラエルは地上戦で徹底的に掃討する構えを崩していないものの、ガザで草の根の福祉活動を続けてきたハマスへの市民の支持は厚く、困難との見方も出ている。 (1面に関連)
 「地上にいようが地下にいようが、全てのハマス戦闘員を破滅に追いやる」。イスラエルのネタニヤフ首相は25日夜、国民向けテレビ演説で言明した。「詳細は明かさない」と開始時期には触れなかったが、地上侵攻を準備中だと強調した。
 ただ、米メディアはバイデン政権が地上侵攻の延期を要請したと相次いで報じた。ウォールストリート・ジャーナル紙によると、イスラエルも同意した。人質解放のほか、近隣諸国に展開する米軍用に防空システムを配備する時間を稼ぐためだという。
 イスラエル政府によると、ハマスは約220人を人質に取り、その半数以上が外国籍だ。前指導者のマシャル氏は英テレビのインタビューで「人質解放には適切な条件が必要だ」と述べ、攻撃停止を要求。自国籍保有者を救出したい米欧などの弱みにつけ込み、イスラエルに圧力をかけさせる戦略が功を奏している。
 ハマスは1987年のパレスチナ人による第1次インティファーダ(反イスラエル闘争)を契機に創設された。イスラエルの存在を認めず、激しい武装闘争を繰り広げ、米国や英国は「テロ組織」に指定する。一方、イスラエルに境界を封鎖され「天井のない監獄」と言われるガザで、市民に教育や医療を提供し貧困層を中心に浸透してきた。
 近年はハマスへの不満の声も一部にあったが、7日の奇襲に対し、イスラエルに抑圧されてきた市民の大半は喝采を送った。バイデン大統領は「ハマスはパレスチナ人の代表でない」と語るが、イスラエル軍の空爆を連日受けるガザでハマス批判はほぼ出ていない。
 「ハマスはわれわれの土地と名誉を守る抵抗運動だ。誇りに思う」。ガザ南部に避難中のムハンマド・サレハさん(35)はこう言い切る。別の避難民の男性(44)も「ハマスはするべきことをした」と断言した。
 逆に、ガザ市民のイスラエルへの憎しみは強まる一方だ。空爆による死傷者は増え続け、ガザの人口の3分の2に当たる約140万人が避難を強いられている。食料や燃料、電気は遮断され、水不足も深刻で、医療は崩壊の危機にある。
 米CNNテレビによると、米軍は軍事顧問として海兵隊大将らをイスラエルに派遣した。2003年のイラク戦争後、反米武装勢力の拠点となったイラク中部ファルージャで壮絶な市街戦が展開されたことを引き合いに、地上侵攻のリスクの大きさを説明。精密空爆や特殊作戦に切り替えるよう要請したという。
 それでも地上侵攻は不可避との見方は強い。侵攻が始まれば民間被害が一層拡大し、ガザ市民のイスラエルへの憎悪もさらに増幅するのは確実だ。英国のシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)の専門家は「ハマスを軍事的に倒すことに成功しても、市民の支持は続いていく」と指摘した。(エルサレム共同=吉田昌樹)
イスラエル軍の空爆で負傷した子どもを運ぶパレスチナ人男性=26日、ガザ地区南部ハンユニス(ロイター=共同)