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迷走する欧州の良心 仲宗根雅則


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 10月7日、パレスチナを拠点にするハマスがイスラエルを攻撃し残虐行為を働いた。被害者のイスラエルはすぐに応酬。ハマスに劣らない凶悪さでガザ地区住民を虐殺し続けている。
 ところがイスラエルへの欧米列強の非難は、ハマスへのそれに比べると弱い。ほとんど寛容と言ってもいいほどだ。ハマスが先に手を出した上に子どもの首を切り落とすなどの残忍非道な動きをしたことが、欧米世論の憎しみを買ったからだ。
 ユダヤ人は約2000年前にローマ帝国によってパレスチナから追放され欧州に逃れた。以来欧州ではユダヤ人への偏見、差別が連綿と繰り返された。辛酸(しんさん)をなめ続けたユダヤ人の不幸は、20世紀になってヒトラーが先導したホロコーストによって最高潮に達した。
 イスラエルが自身の存続と防衛に死に物狂いで取り組むのは、その国民であるユダヤ人が欧州で差別され殺りくされ排除され続けてきた悲惨な過去があるからだ。
 またパレスチナVSイスラエルの抗争において、欧州が米と共に頑強にイスラエル支持に回るのは、2000年近くにわたってユダヤ人を抑圧してきた、過去への償いの思いがあるからである。それは欧州の良心の発露だ。大半がキリスト教徒である欧州人は、同時に反ムスリムの心情も秘匿しているため、パレスチナを軽視しユダヤ人国家イスラエルへの共感だけを心中に育む傾向もある。
 だが、一方的なイスラエル擁護論は危険だ。ハマスによる、イスラエルへの残虐な無差別攻撃はむろん許しがたいものだ。だがそこに至るまでには、イスラエルによるパレスチナ人民への抑圧、侵略、虐殺行為などが頻発してきたのもまた事実だ。欧米列強はその現実を直視して、イスラエル支持一辺倒の姿勢を見直すべきである。(イタリア在、TVディレクター)