イスラエルのネタニヤフ首相がパレスチナ自治区ガザで地上作戦を拡大し、イスラム組織ハマス掃討と多数の人質の奪還を目指すと明言した。照準はガザに張り巡らされたトンネル網だ。人質は地下施設で拘束されているとみられ、奪還に向けて戦闘環境を整えていく方針。ただトンネル網攻略の壁は高く、難航も予想される。
「地上と地下にいる敵を破滅させ、勝利する」。ネタニヤフ氏は28日の記者会見で、険しい表情で言い切った。ガラント国防相も会見に先立ち、作戦拡大で「ガザの地面が揺れた。地上も地下も攻撃した」と述べ、戦闘が「新たな段階」に入ったと強調した。
背景にあるのが、密集地ガザにハマスが構築した「メトロ」と呼ばれる地下トンネル網の存在だ。イスラエルに封鎖されたガザへの武器や物資の搬入に加え、ゲリラ戦にも利用。2014年の戦闘ではトンネルから越境攻撃も行い、イスラエル側はトンネルをたびたび破壊してきた。
現在のトンネル網の実態は分かっていない。ハマスのガザ地区責任者を務めるシンワール指導者は21年の戦闘の際、長さは「500キロ以上」と主張した。地下80メートルまで掘られているとの見方もある。同指導者は7日のイスラエル奇襲を首謀した1人とされ、地下で潜伏中とみられている。
「クモの巣のような地下トンネルに連れて行かれ、数キロ歩いた」。奇襲で人質となり、23日に解放されたイスラエル人女性ヨヘベット・リフシッツさん(85)は記者団にこう証言した。
地下にある部屋で25人ほどの人質を見たとも語った。イスラエル軍によると人質は220人以上。ハマスが複数の場所に分けて拘束している可能性が高い。
ネタニヤフ氏は会見で、ハマスが「複数の病院を司令部として使っている」とも断言した。ハマスの一大拠点だとするのがガザ最大級のシファ病院で、地下に指揮所を設けトンネル網の入り口にもなっていると主張する。ハマスは否定し、イスラエル軍が住民の避難先の病院を攻撃するつもりだと反発する。
一方、地下トンネル網の維持には換気システムが必要で燃料が不可欠だ。イスラエル当局者は地元メディアに、燃料が枯渇すれば「ハマスは地下に潜伏できなくなる」と語った。
レバノン国境で交戦が続くなど周辺情勢も急速に悪化している。ネタニヤフ氏は会見で「長く厳しい戦いになる」と語った。その先行きは誰にも見えていない。
(エルサレム共同=吉田昌樹)
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琉球新報朝刊
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