パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスは今回のイスラエルとの戦闘で、拘束している人質を最大限利用する構えだ。兵器の能力で劣るハマスは心理戦を交えながらイスラエルを揺さぶる戦略とみられる。イスラエルにとって「人質問題は最重要事項」(軍当局者)で、目標に掲げるハマス壊滅に向け高いハードルとなりかねない。
「人質が危険にさらされるかもしれない。(イスラエルによるガザでの)軍事作戦は非常に怖い」。息子アミットさん(16)が人質となっているタル・シェニさん(47)はこう訴える。
ハマスは7日のイスラエルへの奇襲で子どもを含む多数を拉致した。これまでに4人を解放したものの、現在も外国人を含む230人以上が拘束中とされる。
中東最強の軍事力を誇るイスラエルは地上作戦を展開しつつ、ハマスの壊滅を目指して陸海空からガザを激しく攻撃する。
一方、ハマスは人質を巡る真偽不明の情報を発信し、イスラエル世論や関係国をかく乱する。
26日には「イスラエル軍の空爆で死亡した囚人は50人に達したと推定している」と通信アプリに投稿した。イスラエル軍当局者は「ハマスが言うことは何も信じない。ハマスはメディアを操っている。心理的なテロだ」と批判した。
ハマスは2006年6月にもイスラエルに越境攻撃し、同国兵1人を拉致した。イスラエル軍はガザに地上侵攻したが、奪還できなかった。解放されたのは5年以上たった11年10月。イスラエルが収監していたパレスチナ人服役囚ら1027人との身柄交換だった。当時も首相だったネタニヤフ氏はこの条件をのんだ。辛酸をなめたイスラエルに対し、ハマスは大きな実績を上げた。ハマスが今回人質を奪った背景に、この時の成功体験があるのは間違いない。
イスラエルのガラント国防相は28日の記者会見で「戦争は新たな段階」に移ったと表明し、ハマス壊滅を目指す考えを改めて示した。ネタニヤフ氏は「取り戻すためにあらゆることをする」と強調。人質とイスラエルが拘束するハマス関係者との身柄交換の可能性を排除しなかった。
ただ身柄交換は危険な賭けでもある。人質を交渉材料に使えばイスラエルから譲歩を引き出せると解釈され、将来的に敵対勢力による新たな拉致につながりかねないからだ。
軍事力で人質を奪還するのも一筋縄ではいかない。ガザには地下トンネルが張り巡らされ、人質の拘束場所になっているとみられる。
シンクタンク「欧州外交評議会」で中東を専門とするヒュー・ラバット上級政策フェローは、人質は分散して拘束されている可能性が高いとし「一度に多数を救出するのは不可能だろう」と分析。奪還は「非常に難しい任務だ」と指摘した。(エルサレム、東京共同=岡田隆司、山口弦二)
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ハマス、人質使い心理戦 「最重要事項」で揺さぶり メディア操作 成功体験 危険な賭け
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琉球新報朝刊
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