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「民族浄化だ」高まる批判 犠牲7割 女性と子ども ■不釣り合いな報復 ■「責任はハマス」 ■同情されるよりも


「民族浄化だ」高まる批判 犠牲7割 女性と子ども ■不釣り合いな報復 ■「責任はハマス」 ■同情されるよりも エジプト側に移送するため、負傷者を救急車に運ぶ人ら=1日、ガザ南部ハンユニス(ゲッティ=共同)
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 イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの攻撃で犠牲者数が拡大の一途をたどっている。全面的な地上侵攻前にもかかわらず、過去の戦闘と比べても突出。国連によると、7割近くが子どもや女性で「国際人道法違反」との批判が高まる。だがイスラエルは「生存を懸けた戦い」(ネタニヤフ首相)と位置付け、ガザを実効支配するイスラム組織ハマス壊滅を目指し、攻撃の手を緩める気配はない。
 「ガザからパレスチナ人が消えるのも、あと数週間だろう」
 10月31日に激しい空爆があったガザ北部ジャバリヤ難民キャンプ。現場には巨大な穴が開き、がれきの周辺に遺体の一部が無数に転がる。英語教師イマン・バシールさん(32)は「民族浄化だ」と震えるように話した。死者は少なくとも50人とされる。
 7日のハマスの奇襲を受け、イスラエル軍はガザを攻撃し始めた。11月1日までのイスラエル側の死者は1400人以上。ガザ側は6倍超の8796人で「不釣り合いな報復」(フランシス国連総会議長)と非難を浴びる。
 国際人道法は、戦時下でも子どもは特別の保護を与えられると定める。しかし、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のラザリニ事務局長は10月30日、安全保障理事会の会合で「3週間で約3200人の子どもが殺された」と指摘。ハマスの残虐行為はイスラエルの免責を意味するものではないとし「全ての戦争にはルールがある」と訴えた。
 国連のグテレス事務総長も「いかなる当事者も国際人道法の上に立っていない」と断言。イスラエルの後ろ盾である米国のバイデン大統領さえも、ネタニヤフ氏との電話会談で、人道法にのっとり民間人の保護を最優先するよう求めた。
 それでもイスラエルの苛烈な攻撃は続く。これまでもハマスと繰り返し戦火を交え、全面的な地上侵攻があった2008年のガザ側の死者は1385人、14年は2251人だった。今回は越境部隊がガザ内で作戦を続け、昼夜を問わず大規模空爆を加えている。全面侵攻には至っていない段階で、既にこれらを大幅に上回る。
 「退避勧告を出すなどあらゆることをしている。何が起きても全責任はハマスにある」。シクリ・ディアスポラ(離散)相は31日、外国メディアとの会見で攻撃の正当性を主張した。
 イスラエルではハマスの奇襲でかつてない多数の民間人が犠牲となった衝撃が今も収まらない。生き延びた市民がメディアで証言する機会も増え恐怖と憎しみが膨らむ。
 アラブ系イスラエル人記者ムスタファさんは「ハマス壊滅のためにはイスラエル兵の犠牲も、パレスチナ人の犠牲も構わないというかつてない強固な意志を感じる」と指摘する。「民間人と戦闘員を区別するというのは政治家の建前で、社会全体がパレスチナ人への敵意に満ちている」
 イスラエル初の女性首相ゴルダ・メイア(1898~1978年)はユダヤ人の苦難の歴史を念頭に「われわれは同情されて死ぬよりは、悪印象を持たれても生きる方を選ぶ」と語ったことがある。別のユダヤ人記者はハマスの奇襲後に「社会にこの言葉が広がっている」と強調した。(エルサレム、東京共同=平野雄吾、久下和宏)
エジプト側に移送するため、負傷者を救急車に運ぶ人ら=1日、ガザ南部ハンユニス(ゲッティ=共同)