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病院、激戦渦中に ガザ イスラエル進軍  負傷者急増、4割機能停止 悲鳴 非人道性


病院、激戦渦中に ガザ イスラエル進軍  負傷者急増、4割機能停止 悲鳴 非人道性 7日、イスラエルによる空爆後、ガザ地区南部ハンユニスのナセル病院で治療を受ける子ども(ゲッティ=共同)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 イスラエル軍が地上侵攻するパレスチナ自治区ガザで、病院の被害が拡大している。負傷者が急増する中、軍は病院の地下にイスラム組織ハマスの拠点があると主張。軍の攻勢で4割の病院が機能停止に追い込まれた。国際人道法で保護対象の病院を舞台に、激戦が展開される恐れが強まっている。 (1面に関連)
 「病院は真っ暗で患者の顔も見えない。どうやって治療するの?」
 7日夜、北部ガザ市にあるランティーシー病院の女性医師が電話取材に訴えた。アラブメディアによると、病院では6日、空爆で35人が負傷。太陽光パネルで何とか電気を賄っていたが、破壊されてしまった。
 今回の戦闘で目立つのは医療機関の被害だ。国連によると、物理的被害や燃料不足で35病院のうち14が、72診療所のうち51が休業した。ガザ保健当局によると、これまでに医療関係者192人が死亡した。
 ガザ市のトルコ・パレスチナ友好病院は10月30日の攻撃で被害を受け、治療活動を終えた。ソブヒ・スカイク院長は「初めは病院周辺、次に敷地内、最後に病棟が攻撃された」と憤る。
 辛うじて診療を続ける病院も悲鳴を上げる。北部ベイトラヒヤのインドネシア病院は通常140床だが、現在は420床に。4人部屋にベッド8台を詰め込む。廊下にできる血だまり、患者が密集し悪臭漂う病室―。マルワン・スルタン医師は「本来手術すべき患者も麻酔不足でできない。救急車が来ても受け入れを断ったことがある」と明かした。
 「テロリストは病院から撃ってくる」。イスラエル軍のハガリ報道官は5日、ガザ市にあるカタール政府出資の病院などを名指しし、証拠だとする映像を公開した。軍当局の元顧問で、テロ対策が専門のミハエル・ミルシュタイン氏は「ハマスは病院に拠点網を築いた最初のテロ組織だ。病院は、もはや純粋な医療機関ではない」と語る。
 国際人道法は医療機関への攻撃を禁じているが、ハマスが病院を拠点にする場合、話は複雑になる。
 イスラエル軍で国際法部門に所属したダニエル・リズネル弁護士は「医療機関を拠点にすること自体が戦争犯罪で、戦闘員がいるなら医療機関には当たらない」とみる。病院攻撃には国際社会の非難が集中する。ハマスはこれを見越し、イスラエルの「非人道性」をアピールする戦略の一環との見方も出る。
 一方、パレスチナ系カナダ人でハーバード大講師のディアナ・ブトゥ氏(国際法)は「国際人道法は病院を攻撃対象にすることを禁じ、それ以上でも以下でもない」と強調。ヨルダン川西岸の医師で人権活動家でもあるムスタファ・バルグーティ氏は「軍の主張は虐殺への弁明。病院攻撃は戦争犯罪だ」と断じる。
 ガザ市を包囲した軍は、ハマスが地下に一大拠点を置くとみる最大の医療機関シファ病院に迫る。中東メディアは6日、シファ病院が攻撃されたと報じたが、軍は全面否定。真偽は明らかになっていない。双方が非難する中、戦闘は新たな局面を迎えている。(エルサレム共同=平野雄吾)