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衆院解散 年内断念へ 特別評論 減税策、世論離反に拍車


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 果たして岸田文雄首相は来年以降に衆院解散・総選挙に踏み切ることができるのか。それが次の政治課題となった。それほど年内解散を断念した首相に働く遠心力は強い。駄目押しは唐突な減税策だ。政権浮揚狙いでぶら下げられたニンジンだと見透かされ、世論の離反に拍車をかけた。物価高に向き合う姿勢が疑われる事態は深刻と言える。 (1面に関連)
 減税策は政治的に「劇薬」である。橋本政権では減税期間に関する発言のぶれが1998年参院選の自民党惨敗をもたらし、麻生政権は定額減税案を給付金に切り替える中で統治能力の欠如を批判され、2009年の政権陥落につながった。
 にもかかわらず、岸田首相は与党幹部と相談せず既定方針とした。秋解散をにらんで指導力発揮に先走った、と自民党幹部は解釈している。
 その上で浮かぶのは経済対策よりも政局対応を優先していなかったかとの疑念だ。年明けのBS番組では解散カードを巡って「(来年秋の)自民党総裁選の前のどこかで国民の信を得た方がいいのではないか」と問われ「もちろんそうだと思う。ただ、そのためにもまずは具体的に何をするのかが問われている」と答えていた。先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で内閣支持率が一時的に上がった際には6月解散の選択肢をぎりぎりまでちらつかせた。
 一方で看板政策の「新しい資本主義」の具体化は後手に回った。10月の所信表明演説は「税収増の還元」と「供給力の強化」を経済対策の柱としたが、霞が関文学と呼ばれる官僚作文でアピールしても響かないのは当然である。
 11月の共同通信世論調査で「岸田内閣を支持しない」と答えた人は56%。理由は「経済政策に期待できない」が断トツだ。政権が生活苦に寄り添っていない、と考える人が多いと読み取れる。
 日本経済の難題は物価高や円安だけでない。人口減少問題が地域社会の存立を脅かしている。各選挙の低投票率は政治が閉塞(へいそく)感を解消する役割を果たしていない現実を映し出す。解散風がやんで、首相に逆風が吹く。衆院選や総裁選戦略の前に政治不信を直視すべきだ。  (共同通信政治部長・杉田雄心)