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続く大惨事、命の選別苦悩  包囲下ガザ病院 住民「世界が許すとは」


続く大惨事、命の選別苦悩  包囲下ガザ病院 住民「世界が許すとは」 パレスチナ自治区ガザで立ち上る煙=11日 (ロイター=共同)
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 【エルサレム共同=平野雄吾、吉田昌樹】「誰の命を救い、誰を救えないのか、難しい決断をしている」。パレスチナ自治区ガザで地上侵攻を進めるイスラエル軍が10日、中心都市ガザ市で複数の病院を包囲し集中的な攻撃を行った。軍はさらに攻勢を強める構えで民間人の被害拡大は必至。「大惨事」に終わりは見えず、苦悩する医療関係者からは諦めにも似た声が上がる。 (1面に関連)
 「廊下は病人とけが人でいっぱいだ。私は今、100人の遺体の前で話している」。ガザ市にある地区最大級のシファ病院。ムハンマド・アブサルミヤ院長は中東の衛星テレビ、アルジャジーラで声を震わせた。「医薬品も燃料もベッドもない。頭上ではイスラエル軍機が旋回している」。病院では10日に攻撃があり、赤い炎や白い煙が立ち上る映像が流れた。
 ガザ保健当局は10日、シファ病院内部とする映像を公開した。患者を乗せたまま廊下に置かれる無数のストレッチャー。廊下に広がる血だまり。血で染まった包帯を頭に巻いた男性があおむけで静かに口を動かす様子も。医療関係者とみられる男性は「子どもたちが泣き叫んでいる。救急病棟では死者が放置されている」とため息をついた。
 シファ病院に身を寄せた住民らも南部に向かい始め、地元記者ムハンマド・マスリさん(26)も10日、列に加わった。「イスラエル兵が発砲してきた。祖父が話していたナクバ(大惨事)そのものだ」。1948年のイスラエル建国でパレスチナ人が故郷を追われた「ナクバ」に自身の退避を重ね「人生最悪の日。世界がこんなことを許すと思ってもいなかった」と嘆いた。
 ガザ市のアルクッズ病院を運営するパレスチナ赤新月社のニバール・ファルサフ報道官は共同通信に対し、支援物資も受け取っておらず「まもなく全ての医療業務を中止せざるを得なくなる」と強調した。電力不足で懐中電灯を頼りに治療することもあるという。
 この病院敷地では簡易テントで約1万4千人が避難生活を送る。その1人、ハナ・カマルさん(48)は「病院周辺が空爆され破片がテントを貫通した。毎日食料と水を探し求めている」と訴えた。