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<表層深層>宝塚俳優急死/暴言「当たり前と洗脳」/構造放置の運営側責任重く


<表層深層>宝塚俳優急死/暴言「当たり前と洗脳」/構造放置の運営側責任重く 宝塚大劇場=14日午後、兵庫県宝塚市
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 宝塚歌劇団(兵庫県)の俳優の女性(25)が急死した問題で、歌劇団は外部弁護士らによる調査報告を基に、遺族側が主張する女性へのいじめやパワハラは「確認できなかった」とした。だが関係者は「無自覚なまま暴力が横行する構造を放置した運営側の責任は重い」と指摘。「清く正しく美しく」を掲げる歌劇団の暗部は払拭できるのか。 (1面に関連)

 認識のずれ

 「精神障害を発病させる恐れのある心理的負荷がかかっていた可能性が否定できない」。歌劇団が設置した調査チームの報告書は、長時間労働の影響を指摘した上で、いじめやパワハラの存在は認定しなかった。
 遺族代理人の川人博弁護士は、宙(そら)組所属で入団7年目だった女性が「過労死ライン」を大幅に超える労働を課された上で、上級生から怒号を浴びせられるなどのパワハラを受けたことで「自殺に至った」と主張。歌劇団側の調査結果と遺族側の認識には大きなずれがあり、川人弁護士は14日の記者会見で「事実認定と評価は失当だ」と反論、再検証を強く求めた。

 気風を継承

 歌劇団は伝統的に「規律」を重視した人間教育を掲げてきた。その象徴が「清く正しく美しく」。歌劇団と運営する阪急電鉄の創始者、小林一三氏の言葉とされ、校訓とする宝塚音楽学校では「あいさつや言葉づかい、礼儀作法」などを「芸事に向き合う真摯(しんし)さ」と位置づけ、上級生が下級生へ厳しく受け継いでいく「気風」を守ってきた。
 ある歌劇団OGは「どんなに暴言を吐かれても上級生には反論できず、謝り続けるしかない。眠れず食べられないほど忙しく、家族などに相談するのも『外部漏らし』と呼ばれご法度。厳しさを超えて懲罰的なパワハラの構造がある」。遺族側が指摘した歌劇団の内部事情について「昔とほとんど変わっていない」とため息を漏らす。

 特殊な環境

 いびつな組織風土の背景には、2年制の音楽学校の卒業生のみが入団を許される歌劇団の特殊なシステムがあるという。「10代で学校に入って、度を越した厳しい指導や労働環境が当たり前だと洗脳されてしまう」と話すのは、現役タカラジェンヌの家族。匿名を条件に取材に応じ「上級生から人格否定のような暴言を吐かれ続けても、睡眠時間が数時間でも、自分が悪いからだと思い込み、自分を責めるようになってしまっている」と、執拗(しつよう)に繰り返される指導の“弊害”を明かす。
 「誰もが被害者であり、加害者でもある恐怖支配」の構造になっているとも指摘。「誰が悪いというよりも、みながそれを正義だと思ってやっている」と、モットーとは乖離(かいり)した実態を証言する。
 公表された調査報告書は、急死した俳優を巡る指導を稽古などの個別のケースに応じて検討、「社会通念に照らして許容される範囲内」とした。歌劇団は過密な公演、稽古日程や下級生への指導方法の改善などに取り組むとし、改革姿勢を強調した。
 現役タカラジェンヌの家族は「宝塚に入ったときはすごくうれしかったのに、夢が破られた」と目を潤ませる。「歌劇団は本当に変わらないといけない。OGらにも声を上げてほしい。喉元過ぎればということで、うやむやにするのは許されない」と言葉に力を込めた。
(共同通信)