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<表層深層>米押し切り 未明に作戦 ガザ・シファ病院突入 特別訓練 イスラエル、配慮を強調


<表層深層>米押し切り 未明に作戦 ガザ・シファ病院突入 特別訓練 イスラエル、配慮を強調 15日、ガザ市のシファ病院の敷地内を歩くイスラエル兵士(イスラエル軍提供、ロイター=共同)映像からのこま落とし
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 イスラム組織ハマスの壊滅を目指すイスラエル軍が15日未明、パレスチナ自治区ガザ最大の医療機関シファ病院に突入、軍事作戦を展開した。地下にハマス司令部があるとの主張に、同盟国の米国も同調。ただ病院への攻撃は国際人道法違反との批判が根強く、自制を求めてきた。イスラエルは患者らを極力巻き込まないよう配慮を示し、米国を押し切った形だ。 (1面に関連)
 「動くな」。覆面姿の兵士がアラビア語で叫びながら、救急病棟になだれ込んだ。中東の衛星テレビ、アルジャジーラなどによると、兵士は外科病棟にも入り、敷地内には戦車が侵入した。イスラエル軍は15日午前2時過ぎ、声明で作戦を実行中だと明らかにした。
 保育器が使えず毛布に包まれた新生児、鼻にチューブを付けたまま目をつむる少女。廊下にはやつれた表情の高齢者が静かに座る。病棟のどのフロアも患者や避難してきた市民であふれていた。
 病院に残る男性医師は「爆撃と銃撃が続いている。兵士が部屋を一つ一つ調べている」と訴えた。病院と連絡を取るガザ南部の看護師は「人々は恐怖におののいているが、誰も逃げないだろう」と語った。
 イスラエル軍は声明で、突入部隊には医療チームも含まれ、ハマスが「人間の盾」にする民間人に被害が及ばないよう特別な訓練を受けていると強調。さらに保育器や離乳食、医薬品を届けたとも発表した。人道上の批判をかわし、病院攻撃を正当化したい思惑が透ける。
 「戦争犯罪だ」。シファ病院突入前の14日、米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、ハマスが病院を軍事利用しているとの「米国の独自情報」をあえて公開した。病院にハマスの拠点があるとの主張にお墨付きを与え、対イスラエル感情がこれ以上悪化しないよう予防線を張る狙いがあったとみられる。
 一方で「病院への空爆は支持しないし、銃撃戦も望まない」とくぎも刺した。患者や子どもの命を奪えば、イスラエルが中東地域だけでなく国際社会から完全に孤立しかねないとの危機感もにじむ。米国が曖昧な態度を取る中、イスラエルは病院攻撃に踏み切った。
 バイデン大統領にとり、最大の懸念は病院や地下にいる可能性もある人質の安全だ。カタールを介した解放交渉に失敗すれば、外交上の失態として批判を浴びるのは必至。記者団に解放の可能性を問われると、厳しい表情で答えた。「関係者と毎日のように話している。そうなるだろう」
 シファ病院の包囲網を徐々に狭められ、ハマスは追い詰められていた。13日には5日間の停戦と引き換えに、人質を最大70人解放する用意があると公表したものの、不発に終わった。ただ抗戦の構えは崩していない。
 ハマスは病院攻撃の「非人道性」を国際社会に訴え、米国がゴーサインを出したと主張。全長数百キロとされる地下トンネル網を駆使し、ゲリラ戦を展開するとみられる。拘束中とされる約240人の人質は、依然として停戦交渉の有力な取引材料だ。
 「1日や2日ではなく、われわれは長い月日の話をしている」。イスラエルのガラント国防相は病院突入を控えた14日夜の記者会見でこう語り、戦争の終結時期が見通せないことを示唆した。
  (エルサレム、ワシントン共同=平野雄吾、高木良平)
15日、ガザ市のシファ病院の敷地内を歩くイスラエル兵士(イスラエル軍提供、ロイター=共同)映像からのこま落とし