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余力失い妥協の握手 米中首脳会談  くすぶる衝突の火種 融和演出 こだわり 強気


余力失い妥協の握手 米中首脳会談  くすぶる衝突の火種 融和演出 こだわり 強気 米中関係の構図(写真はゲッティなど)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 バイデン米大統領と中国の習近平国家主席が1年ぶりに会談した。米国は中東情勢、中国は経済減速という難題を抱え競争の余力を失い、緊張緩和へ妥協の握手を交わした。だが台湾などを巡る立場の隔たりは埋まらず「相互不信が支配する関係に変わりはない」(外交筋)。衝突の火種はくすぶり続ける。 (1面に関連)
 「私たちは長い付き合いだ」。15日、米西部サンフランシスコ近郊のウッドサイド。バイデン氏は6年半ぶりに訪米した習氏を「お帰りなさい」と出迎えた。
 テーブルを挟んで約2メートル先に座る習氏は、2011年に副大統領だったバイデン氏が中国を訪れたことを「はっきり覚えている」と思い出話に花を咲かせた。
 両首脳は習氏が初めて渡米した38年前にサンフランシスコの観光名所、金門橋を背景に撮った写真を見ながらにこやかに談笑し、融和ムードを演出した。
 「米国のインド太平洋地域に対する関与は変わらない」。バイデン政権高官らは強調する。だが、ロシアが続けるウクライナ侵攻に加え、10月にはイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が勃発。中東の地域紛争に発展しかねない事態に直面し、中国との覇権争いに軸足を置く余裕はない。
 バイデン氏が習氏との会談にこだわったのは、来年11月に大統領選を控えていることも大きい。トランプ前大統領ら共和党有力者は、バイデン政権が中国に弱腰だと批判。中国を「深刻な脅威」と考える米国民も増えている。選挙が近づけば譲歩の余地は狭まる。
 米識者は「米国のために立ち上がる強いリーダーという物語を作るのに対中政策は役立つ」と指摘する。記者会見でバイデン氏は、米社会で問題化している薬物乱用への対策で中国の協力を引き出したことを会談の成果として真っ先に挙げ、有権者にアピールした。
 国内事情を抱えるのは習氏も同じだ。不動産市場は低迷し、輸出が鈍化。来年も成長減速が見込まれ、中国政府当局者は「経済の立て直しに注力するため、米国や日本との対立激化は望まない」と本音を漏らす。
 中国政府にはトランプ氏が大統領に返り咲くことを警戒する声も。「中身ある合意をしてもトランプ氏が再び大統領になれば意味がない。白紙に戻ってしまう」(当局者)からだ。それでも習氏が会談に応じたのは緊張緩和を図る思惑がバイデン氏と一致したためだ。だが米国に対抗する長期戦略は堅持している。習氏は首脳会談に強気で臨み、台湾を「必ず統一する」とたんかを切った。「習氏の権力基盤は強固でバイデン氏に譲歩する必要はない」(香港の中国研究者)
 アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて中国以外の国々が議論したインド太平洋経済枠組み(IPEF)、日米豪印の協力枠組み「クアッド」―。米主導の対中包囲網を念頭に習氏は「中国が抑え付けられている」とバイデン氏に不満をぶつけた。
 「懸念があれば互いに電話する」。バイデン氏は米中の先行きを楽観視する。だが米国の中国専門家は「米中間には予測不可能な要素が多い。問題が起きれば重ねた努力は一瞬で崩れる」と述べ、打算に基づく歩み寄りのもろさを指摘した。(サンフランシスコ共同=清水敬善、木梨孝亮)