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イスラエル、人質奪還優先 休止後、侵攻拡大の恐れ


イスラエル、人質奪還優先 休止後、侵攻拡大の恐れ 人質解放交渉の構図
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 イスラエルが22日、イスラム組織ハマスとの戦闘を一時休止することを決めた。カタールや米国の仲介による人質解放の交渉は1カ月を超え、イスラエル軍の猛攻にさらされるハマスは早期妥結を模索。イスラエル戦時内閣では異論も出て、臨時閣議は紛糾したものの、人質奪還に妙手はなく最終的に折り合った。ただハマス壊滅を目指す方針は揺るがず、休止期間終了後、侵攻を拡大させる可能性がある。

採決
 閣議は現地時間21日午後9時ごろ始まった。ネタニヤフ首相は閣僚らを前に「人質帰還はわれわれに課された神聖で崇高な任務だ」と訴え、戦闘休止を承認するよう求めた。
 だが現地メディアによると異論が相次いだ。
 ガラント国防相は閣議に先立ち「ハマスへの圧力なしに人質解放は保証されない」と強調。野党から戦時内閣入りしたガンツ元国防相は「痛みを伴うが、正しくもある」と休止を支持し、反対する極右政党の閣僚に声を荒らげる場面もあった。
 イスラエル軍によると、ハマスはパレスチナ自治区ガザで230人以上を人質に取っている。拘束の長期化に伴い、奪還を求める声は国内外で日増しに強まっていた。
 閣議は全会一致に至らず、最終的に異例の採決に持ち込まれた。承認され、閣議が終了したのは日付が変わった22日午前3時ごろだった。

破談
 ハマスはイスラエルの圧倒的な軍事力で劣勢に立たされており、疲弊した戦闘員に休息を与え、態勢を立て直す必要に駆られていた。
 「少なくとも2回破談した。ネタニヤフは信用できない」。情報筋によると、ハマス指導者ハニヤ氏は今月上旬、後ろ盾のイランを訪問。最高指導者ハメネイ師らと会談し不満をぶちまけた。一刻も早い戦闘休止を望んでいたとみられる。
 パレスチナ情勢に詳しい元レバノン軍幹部で政治評論家のヒシャム・ジャバル氏は他の狙いも説明する。ハマスは政治的交渉が可能な相手だと国際社会に示し、過激派組織「イスラム国」(IS)のようなテロリストではないとアピールできる。人質のさらなる解放をちらつかせ「できる限り戦闘休止の延長を模索する可能性がある」と分析する。

光明
 今回の交渉はカタールと米国、エジプトが仲介役を担った。曲折はあったが、米政府高官は記者団に「双方が踏むべき措置を詳細に定め、成り行き任せにしていることは何もない」と指摘。イスラエルとハマスの立場の溝を少しずつ埋め、5~6ページの合意文書を練り上げたという。
 米国は首脳、高官レベルで関係国と協議を重ね、10月20日と23日に人質計4人が解放されたことで手応えを得た。一層の解放を目指し、中央情報局(CIA)のバーンズ長官も、イスラエル対外特務機関モサドのバルネア長官と折衝を続けた。
 ハマスはまず人質約50人の解放を約束。対象者全員の年齢や性別、国籍も示した。光明が見えたのは11月14日。バイデン大統領がネタニヤフ氏との電話会談で、この線での交渉に原則合意した。
 ネタニヤフ氏は戦闘休止の承認を諮った閣議で「バイデン氏が努力してくれた」と謝意を示した。
 一方で「ガザにイスラエルを脅かす要素がなくなる」まで、戦争は続くと明言。休止後には侵攻を激化させる可能性が取り沙汰されている。
 (エルサレム、テヘラン、ワシントン共同)