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予断許さぬ「薄氷の合意」 ガザ戦闘休止入り 人道危機解決見えず 直前まで攻撃 戦争犯罪 短い中断


予断許さぬ「薄氷の合意」 ガザ戦闘休止入り 人道危機解決見えず 直前まで攻撃 戦争犯罪 短い中断 戦闘休止と人質解放の合意ポイント(写真はロイター、ゲッティ)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 イスラエル軍とイスラム組織ハマスが24日、パレスチナ自治区ガザでの4日間の戦闘休止期間に入った。深刻化する事態打開の契機と期待されるが、両者は長期の停戦で合意しても何度もほごにしてきた過去がある。今回は一時的な「休止」に過ぎず、「薄氷の合意」(米メディア)の着実な履行は予断を許さない。軍は期間終了後に地上侵攻作戦を再開する構えで、人道危機の解決の道は見えない。 (1面に関連)
 「ガザから爆発音が聞こえる」。戦闘休止が始まる直前の現地時間24日午前7時前。米CNNテレビはガザ境界に近いイスラエル南部スデロトから生中継した。イスラエル軍は夜間にもガザで激しい攻撃を続け、多数の死傷者が出たもようだ。10月7日のハマスのイスラエル奇襲で戦闘が始まって1カ月半。カタールなどが交渉を仲介し、今月22日にやっと成立した両者の合意は、戦闘休止の代わりにハマスが拘束する人質の女性や子ども50人を解放する内容だ。人道支援物資の搬入拡大なども盛り込まれた。
 当初、戦闘休止は23日開始との見方があった。1日遅れた一因はハマスが追加要求を出したためとも報じられた。イスラエルのネタニヤフ首相は、解放されない人質を赤十字関係者が訪問することも合意に含まれると明言。だが、ハマスは拒否したと伝えられる。
 イスラエル軍とハマスによる過去の戦闘では、停戦合意がたびたび破棄されてきた。米シンクタンクの戦争研究所によると、今回の合意はガザで活動するハマス以外の武装勢力に言及していない。ハマスは他の勢力も「軍事活動を止める」と主張したが、末端の戦闘員まで指示が行き届いているかどうかは不明だ。
 双方とも戦闘長期化の中で、追い込まれる形で合意した。イスラエルが地上侵攻するガザでは大勢の子どもが犠牲になり「戦争犯罪」との非難が拡大。国内でも人質奪還を求める声が強まり、ネタニヤフ政権は成果を示す必要に迫られていた。
 一方、ハマスに対するガザ住民の批判も高まっている。地区人口の約8割の170万人超が避難民となり、食料や飲み水も枯渇する。「われわれの世代の未来は破壊された。ハマスの責任だ」。ガザの大学生(20)が電話取材に言い切った。
 イスラエル軍の猛攻でガザは壊滅的な被害を受けている。福祉や教育を通じて浸透してきた住民の支持をつなぎ留めるためにも、ハマスは戦闘を休止する必要があった。
 カタール当局者は、戦闘休止期間の延長があり得るとし、長期の停戦のきっかけになることを期待すると表明した。
 ただハマスは声明で「われわれの指は引き金にかかったままだ」とし、イスラエル軍との対決姿勢を強調。短期の戦闘休止中に態勢を整えるのは困難で、230人以上の人質をカードとして最大限利用しながら駆け引きを続けるとみられる。戦闘再開の場合もゲリラ戦で対抗する見通しだ。
 イスラエルは、ハマスの徹底掃討と人質全員の奪還を目指し再び戦闘を始める方針。地上侵攻をガザ北部から、避難民の多い南部に広げる構えを見せる。「短い中断となる。戦闘は少なくともあと2カ月は続くだろう」。ガラント国防相は23日、こう語った。(エルサレム共同=吉田昌樹)