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仲宗根雅則 観光業発展のジレンマ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 本紙11月10日付の「竹富町 訪問税2000円検討」という記事を見た。
 観光客数がコロナ感染拡大前の100万人規模にまで回復すれば、1人2千円の訪問税によって20億円の税収が見込める。町はそれを使って観光客増で必要となる道路の整備や公共トイレの維持管理など環境整備に活用する、という趣旨だった。
 オーバーツーリズム、あるいは観光公害は世界中で問題になっている。ここイタリアでもフィレンツェ、ベネチア、ローマなど世界的に知られた観光地を筆頭に、経済への悪影響を最低限に抑えつつ津波のように押し寄せる観光客の数をいかに制御するか、が重要課題になっている。
 観光を主な収入源とみなす世界中のあらゆる行楽地は、歴史的に訪問客をできるだけ多く誘致しようと躍起になってきた。だが世界の多くの国々が豊かになり、人々がすさまじい勢いで旅に出るようになったため観光公害が発生するようになった。
 観光業の恩恵を受けている地域が、観光客を拒否するような動きに出るのは不遜だ。しかし訪問客の過剰な流入が地元の人々の日常生活を圧迫するのもまた事実だ。イタリアの観光地はホテル料金を介して徴収する観光税のほかに、街への入場料を課すことなどを真剣に考えている。一方でそうした施策は、観光客の減少を招いて地域経済を破壊しかねない危険を秘めている。一筋縄ではいかない。
 僕はことし4月に故郷の宮古島に帰った際、食堂が観光客でごった返して地元の人々が気軽に宮古そばを食べられない状況を何度も見た。豊かになるために導入する観光業が、地元の人々の生活を破壊する方向に拡大するのは本末転倒だ。竹富町の取り組みは僕の目にはまっとうな方策と映る。
 (イタリア在、TVディレクター)