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出口戦略なく停戦保証なし ガザ休戦きょう期限 米政権、関与巡り亀裂


出口戦略なく停戦保証なし ガザ休戦きょう期限 米政権、関与巡り亀裂 ハマスの人質解放などを巡る主な状況
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 パレスチナ自治区ガザでの戦闘休止期間の終了を前に、イスラエルとイスラム組織ハマスが延長に前向きな姿勢を見せている。イスラエルでは人質全員奪還の要求が高まる一方、壊滅的な打撃を受けたガザではハマス批判が広がり、双方が圧力を受け延長を希望。イスラエルの同盟国の米国も後押しするものの、バイデン政権内ではガザ情勢関与の在り方を巡り亀裂が表面化し始めた。(1面に関連)

全員奪還

 戦闘休止は4日間の予定で24日に開始。ハマスは26日までにイスラエル人と外国人の人質計58人を解放した。ハマスの奇襲攻撃から1カ月半たってようやく一部実現した解放に、イスラエル国内は興奮状態だ。
 だが帰還した人質の家族からは「全員奪還まで喜べない」との声が出る。シンクタンク「イスラエル民主主義研究所」の24日公表の世論調査結果では、230人以上いた全員の奪還が最重要だと答えたのが49%で、ハマス掃討は32%だった。
 イスラエル政府はこれまで延長の可能性をにおわせてきた。当初合意ではハマスが人質計50人を解放し、イスラエルは拘束するパレスチナ人計150人を釈放するとされた。ただ釈放の可能性があるとして氏名が公表されたパレスチナ人は300人に上る。

側面支援

 イスラエルの激しいガザ攻撃は深刻な人道危機をもたらしている。つかの間の平穏を享受するガザ住民の間では停戦を求める声が強い。またハマスには戦闘休止期間を長引かせ、反撃態勢を少しでも整えたい思惑もあるとみられる。
 中東情勢に詳しいエジプト日本科学技術大のサイド・サデク教授は、在外拠点を持つハマスが戦闘休止中、周辺国で協力関係にある武装勢力に「連携要請を強めるだろう」と指摘する。特に注視されるのがイエメンのフーシ派だ。
 親イランでイスラエルを敵視するフーシ派は19日、日本郵船運航の貨物船を拿捕(だほ)したばかりだ。海運の要衝である紅海でイスラエル関連船を同様に襲撃すると公言する。国際社会に存在を見せつけ、イスラエル経済に打撃を与え、ハマスを“側面支援”する。

目標

 「彼らは最悪の試練を耐え抜いた」。バイデン米大統領は26日、記者団の前で解放された人質の無事を祝福した。自身の外交努力が奏功していると誇示し、一層の解放に向け戦闘休止延長が「私の目標だ」と強調した。
 ハマスを「テロ組織」とする米政権が掃討を支持する立場は変わらないが、内部では亀裂が広がる。ワシントン・ポスト紙によると、イスラエルに肩入れし過ぎだと悩むホワイトハウス職員約20人が今月、ダン大統領上級顧問らに詰め寄った。米国際開発局(USAID)では職員千人以上が停戦支持を表明した。
 バイデン氏はイスラエル全面支持を打ち出した戦闘開始直後と比べ、非公開の協議ではネタニヤフ首相に強い言葉で迫る場面も目立ってきたという。足元の不協和音が姿勢の変化につながった可能性がある。
 それぞれの思惑で戦闘休止期間延長が実現しても、出口戦略はなく、恒久的な停戦につながる保証はない。「誰もわれわれを止められない」。ネタニヤフ氏は26日、防弾ベストとヘルメット姿でガザに入り、兵士らを前にこう断言、ハマス壊滅を改めて指示した。(エルサレム、ワシントン共同=吉田昌樹、新冨哲男)