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対テロ称し病院包囲 ヨルダン川西岸 入植者による襲撃も


対テロ称し病院包囲 ヨルダン川西岸 入植者による襲撃も ヨルダン川西岸トゥルムスアヤ村でオリーブを収穫する人たち。右上はユダヤ人入植地=11月
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 パレスチナ自治区ガザに地上侵攻するイスラエル軍が占領地ヨルダン川西岸各地でも攻撃を強めている。ガザの背後にある西岸で武装勢力が活発化することを警戒。「対テロ作戦」と称してモスク(イスラム教礼拝所)を空爆し病院も包囲。ユダヤ人入植者による襲撃も頻発して死者は急増、国連によると「西岸での犠牲者は記録を取り始めた2005年以降最多」となっている。

警戒

 「こっちに来い」。病棟を囲む兵士たちが拡声器で呼びかけると、赤い防弾服を身に着けた医師や看護師ら約10人が両手を上げてゆっくりと出てきた。11月16日夜から翌朝にかけ、イスラエル軍は西岸北部ジェニンの難民キャンプを急襲。銃撃戦の後に武装勢力が逃げ込んだとして、少なくとも四つの病院を包囲した。
 10月下旬には「テロの拠点」としてジェニンの難民キャンプにあるモスクを空爆。11月9日にはジェニンやラマラなどで軍との衝突によりパレスチナ人18人が死亡した。
 ガザでイスラム組織ハマスとの戦闘を11月24日から1週間休止した際も、イスラエル軍は西岸で難民キャンプや病院への攻撃を続けた。「作戦」は昼夜問わず10時間以上続くこともある。

危険

 「攻撃」はイスラエル軍によるものだけではない。西岸のトゥルムスアヤ村はエルサレムの北約30キロにあり、八つのユダヤ人入植地に囲まれている。占領地への入植は国際法違反だ。村には約250のオリーブ農家が住む。その一人、ニダール・ラビエさん(61)は「村で入植者から嫌がらせを受けたことがない人はいない」と語る。以前から入植者による農作物への放火や強奪はあったが「ガザの戦闘が始まってから銃撃が増えた。さらに危険になった」と顔をしかめる。10月中旬から約1カ月はオリーブの収穫期だが、武装した入植者が畑への道を封鎖して妨害。ラビエさんは今秋のオリーブ油生産量は例年の4分の1に落ち込んだと言う。別の村では男性が畑で射殺されたと報じられた。ある農家の男性は「全てが変わった」と嘆く。

隠れみの

 国連によると、今回のガザ大規模戦闘が始まった10月7日から今月4日までの間に、西岸でイスラエル軍と入植者に殺害されたパレスチナ人は計246人。ほとんどが軍による殺害だった。入植者の襲撃は314件発生し、半数近くにイスラエル軍が同行したり支援したりしていた。
 シンクタンク「国際危機グループ」(本部ブリュッセル)は「ガザに関心が集まっているのを利用して、西岸の入植者たちはパレスチナ人を迫害し、入植地を拡大しようとしている」と指摘。「戦争を隠れみのとして、入植者たちは制止する者がいないまま暴力を振るい続けている」と懸念を示している。(トゥルムスアヤ共同=伊東星華)