有料

イスラエル一転「標的は南部」 ガザ戦闘2カ月


イスラエル一転「標的は南部」 ガザ戦闘2カ月 ガザ地区のイスラエル軍の退避要求地域
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が始まってから7日で2カ月。軍はガザ北部のシファ病院にハマスの司令部があるとの当初の説明から一転、「南部にも重要拠点がある」と主張し始めた。地上侵攻拡大の正当性を訴え、避難民であふれる南部最大都市ハンユニスにも進軍する。民間人の被害は他の戦争と比べ「歴史的な速さ」(米紙)で増え続けている。 (1面に関連)

民間被害増「歴史的速さ」
 「われわれは今、南部のハマス本拠地に軍事作戦を展開している」。基地を視察したイスラエル軍のハレビ参謀総長は5日、地元メディアを前に強調した。3日に本格化した南部侵攻の大きな目的はハンユニスの攻略とされる。
 オルメルト元首相は11月中旬、欧州メディアとのインタビューで、司令部はハンユニスにあるとの見方を示した。軍の南部への侵攻を示唆する発言が増えたのは、この頃からだ。
 ハンユニスはハマスのガザ地区責任者シンワール氏の出身地だと、軍関係者はことさら強調する。「ハマスの核となる拠点がある」「ガザ南部のハマスの首都だ」。こう繰り返し、南部侵攻の正当化に腐心した。

首都
 軍はハマスがシファ病院の地下に司令部やトンネル網を構築していると主張し、病院攻撃は国際人道法違反との批判をかわそうとしてきた。「ハマス幹部はシファ病院に隠れ、爆撃されないよう病院を利用する」とも言い立てた。
 病院に突入したのは11月15日。その後、病院が軍事利用された証拠だとして映像を公開し、深さ10メートル、長さ55メートルのトンネルがあり、武器や作戦を指揮する部屋が見つかったと発表した。だが、病院がハマスの中核的な拠点だったと「結論付ける証拠は示せていない」(米CNNテレビ)。
 国連などが独立した調査を求める中、軍は24日、病院の地下トンネルを破壊した。軍幹部は「残しておく軍事的意味がないと判断した」と説明したが、パレスチナ情勢に詳しい元エジプト軍幹部ハムディ・ベヒート氏は「自らの主張の間違いを隠蔽(いんぺい)するための爆破だ」と疑う。

原爆
 元イスラエル軍幹部アミール・アビビ氏は「ハマス壊滅にはガザ全域の制圧が必要で、南部侵攻の計画が元々あった」と軍の説明には矛盾がないとみる。一方、ベヒート氏は「北部の作戦が失敗したため、戦果を求め南へ向かった」と意見は異なる。
 軍は地上侵攻開始に当たり、北部の住民に南部への避難を強要した。住民は再び逃げ始めたものの、安全な場所は十分には残されていない。犠牲者が増えるのは必至だ。
 米紙ニューヨーク・タイムズは単純比較はできないとした上で、イラク戦争やロシアのウクライナ侵攻と比べても「歴史的な速さで民間人が死亡している」と報じた。欧州の人権団体は爆撃規模が大きく、11月上旬までに使われた爆弾の総破壊力は広島に投下された原爆を上回ると分析した。
 「ハマス壊滅」を錦の御旗に南部侵攻を進めるイスラエル軍。ガザ当局によると、2カ月間でパレスチナ人1万6千人以上が死亡した。3分の2が民間人とみられるが、コンリクス軍報道官はCNNに「(困難な)市街戦としては、この割合は極めて良い」と言ってのけた。(エルサレム共同=平野雄吾)