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消えた人影 やまぬ爆音 共同通信記者 軍同行ルポ ガザ地上侵攻


消えた人影 やまぬ爆音 共同通信記者 軍同行ルポ ガザ地上侵攻 8日、パレスチナ自治区ガザ北部ベイトラヒヤで、戦闘で破壊された廃虚に立つイスラエル兵
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 【ベイトラヒヤ共同=平野雄吾】傾いた学校、広がるがれき―。イスラエル軍が地上侵攻するパレスチナ自治区ガザ。住民の影は消え、目に入った数百棟の建物に、無傷のものは見当たらない。8日、共同通信記者が軍に同行してガザ北部ベイトラヒヤに入った。軍とイスラム組織ハマスの戦闘開始後、ガザに入るのは日本メディアでは初めて。無人の廃虚は、戦闘の激しさを物語る。民家前には地下トンネルもあった。爆音がやまず、黒煙が立ち上る。戦闘は続いている。 (1面に関連)
 「危険を感じたら安全な場所を瞬時に判断し伏せろ」。ガザに入る手前で軍兵士が説明した。空を見上げると、ガザ側から発射されるロケット弾を軍の対空防衛システムが撃ち落としていた。イスラエル側から撃ち込まれる砲撃の音も響く。
 同行したのは歩兵や工兵、砲兵の連合部隊。軍用車両で北部の境界から入ると激しい砂ぼこりに襲われた。舗装道路は破壊され、砂利道のため車両は激しく揺れる。行き交うのは戦車や物資搬送用のトラックだ。パレスチナ人の姿はなかった。
 ガザの人口は約220万人。世界で最も人口密度の高い地域の一つだ。これまでの何度ものガザ取材では、とにかく人の多い場所だったと記憶している。路上でボール遊びをする少年、物売りをする男性、荷車を引くロバ…。それまでの市民の暮らしはなくなっていた。生活音は軍用車両のエンジン、無人機(ドローン)の旋回、がれきを踏む軍靴の音に代わった。
 「民家や学校、モスク(イスラム教礼拝所)。ハマスは民間施設を軍事目的に使う。幼稚園では、クローゼットの子ども服の中で砲弾や携行式ミサイルを見つけた」。部隊のマオズ司令官が公園で語った。遊具は破壊され、周囲の高層住宅のがれきがうずたかく積まれていた。コンクリートの隙間からのぞく無数のクッションやベビーチェア。直径約10メートル、深さ約5メートルの巨大な穴もあった。空爆の跡だった。
 弾痕の残る民家の玄関前には地下トンネルの入り口。ハマスが設置したというはしごが取り付けられ、下をのぞいても底は見えない。記者を案内した報道担当のドロン・シュピルマン中佐はこう強調する。「ハマスは住民を人間の盾として利用する。われわれはどの軍隊も経験したことのない市街戦を戦っている」
 ガザ保健当局によると、10月7日の戦闘開始以降、ガザ側の死者は計1万7400人以上。うちハマス戦闘員の死者は5千人程度とされる。残りは民間人だ。
 ヨシと名乗る部隊兵士(30)は帰り際、「ハマスはイスラエル人を虐殺した。ハマスを壊滅する」と話しかけてきた。ハマス奇襲攻撃の際、イスラエル南部スデロトにいたという。戦闘員8人が自宅周辺を徘徊(はいかい)するのを目撃。自宅シェルターで2日間、妊娠中の妻(30)と過ごした。
 一方、彼の自宅の庭を造ったのはガザから出稼ぎに来るパレスチナ人だった。「友人と言えるかどうかは分からないが、良い付き合いをしていた」と話した。「パレスチナ人と共存したい」。その声は涙ぐんでいるように聞こえた。
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 ガザ地区滞在は約1時間半。同行したのは共同通信のほか、読売新聞、イタリアなどのメディア計4社で、記事はイスラエル軍の検閲を受けた。