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<視標>抜本的な改革案を示せ 自民派閥の裏金問題 野中尚人氏(学習院大教授)


<視標>抜本的な改革案を示せ 自民派閥の裏金問題 野中尚人氏(学習院大教授) 野中尚人・学習院大教授
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 自民党安倍派(清和政策研究会)の政治資金パーティー裏金問題が岸田政権の中枢を直撃した。岸田文雄首相は安倍派の閣僚らを事実上更迭したが、自民党の他派閥や国会議員も同じようなことに関わってきたのではないか。法律を無視しておきながら、ばれても陳謝すれば問題ないと言わんばかり。極めて異常な事態で、これは権力の腐敗そのものだ。
 減税や増税、物価の高騰などが国民にとっての切実な問題となるのは、結局はお金が人々の生活を支える血流だからだ。その意味でこの裏金・キックバック問題は、国民の感情を逆なでする重大な罪である。
 しかし、本質は単にお金の問題ではない。はるかに根が深く広がりが大きいのは、自民党による支配体制とシステムの問題である。裏金問題では安倍派が突出している面はあるものの、それは彼らが長年権力の中枢を占めてきたからで、金で政治を動かす悪い慣例は他の派閥も同じだろう。
 世襲議員、派閥、長老談合は完全な内向きの論理に支えられた権力維持の仕組みそのものだ。安倍政権以降は国会を軽視し国民への説明も拒絶。メディアに不当な圧力を加え、民主的な政治の根幹を突き崩す傾向があからさまになってきた。
 日銀による大規模な金融緩和を柱とした「アベノミクス」は、その負の側面が財政と金融政策の足かせとして重くのしかかりつつある。「女性が輝く社会」「地方創生」など選挙のたびに言葉だけのスローガンが掲げられたが、その大半は実現していないばかりか、失敗の検証さえなされていない。幅広い国民の努力で築き上げてきた戦後の繁栄はもろくも崩れつつあるが、今の政治には、これに立ち向かっていく戦略が全く見えない。
 裏金問題に限らず、国会軽視と「お答えは控えさせていただく」という逃げ口上では、重要なことは国民に伝わらない。むしろ可能な限り、隠そうとしているようだ。
 世襲という以外、実質的な能力の証明に乏しい議員が減らない現状も大問題だ。自民党と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関係は、票さえ取れればという選挙至上主義の典型である。民主主義がないがしろにされたまま、国民の希望や利益を尊重する政治など期待できない。
 裏金問題は、特定の派閥や個別の政治家の問題にとどまらない。その背後には、金を軸として政治をつかさどる巨大で深刻なシステムが巣くう。
 日本を沈没させない方策は一つである。自民党の中でトップの首のすげ替えやトカゲのしっぽ切りのようなことをしたところで、何の意味もない。岸田首相にトップリーダーとしての自負が残されているならば、やるべきことは明白だ。まずは政治資金を巡り、小手先ではなく、国民の信頼を回復できる抜本改革案を示すべきだ。そして野党側の対案を交えて国会で十分に論戦し、国民に信を問うことである。
 この先、自民党内の大混乱はどのみち避けられないだろう。党内の旧弊・悪行の土台を大胆に壊し、有為な人材に活躍の場を与えるための抜本改革が自民党再生のためにも欠かせない。これが国民の信頼を回復し政権を担い続けるための唯一の道である。 (1面に関連)
 のなか・なおと 1958年生まれ、高知県出身。東京大大学院修了。96年から現職。専門は比較政治、日本政治。