パレスチナ自治区ガザへの侵攻を続けるイスラエル政府に対し、イスラム組織ハマスに拘束された人質の家族から「戦闘より早期解放を優先するべきだ」としてハマスとの交渉を求める声が高まっている。戦闘休止中に解放された人質が劣悪な監禁生活を証言。軍の誤射で人質が死亡する事態も起き、家族は「一刻の猶予もない」と訴えている。
(3面に関連)
イスラエルの人質家族
怒号
「現時点で全員を連れ戻すことは不可能だ。私は事実を話している」。ネタニヤフ首相は今月上旬、人質家族との面会で断言した。戦闘でハマスに圧力をかけることが人質解放への「唯一の方法だ」とも強調した。
一定の犠牲はやむを得ないと開き直るような発言に家族らは猛反発、怒号が飛んだ。軍の空爆で人質の命が危険にさらされているとの声も上がり、途中で退席する人も。出席者の1人は地元メディアに「人質を取り戻すのが第一目標かと尋ねたが、明確な答えはなかった」と憤った。
ハマスは10月7日の奇襲攻撃で230人以上を拉致した。11月24日から7日間の戦闘休止期間中、女性や子どもを中心に一部を解放したが、現在も130人前後が拘束されたまま。監禁の実態も明らかになり、家族の不安は増している。
エヤル・ノウリさん(56)によると、解放されたおば(72)は長いトンネルを歩いた後、地下深くの部屋に監禁され「いすから動かず、小声で話すよう強制された」と説明したという。わずかな食事と水しか与えられず、解放時に体重は20キロ減っていた。
別の高齢女性は持病があったのに薬を与えられず体調が悪化し、解放されるとヘリコプターで病院に救急搬送された。地元メディアによると、人質を殴るほか、女性の体を触るなどの虐待があったとの証言も出ている。
安否
戦闘休止合意は今月1日に決裂し、イスラエル軍はハマス掃討作戦を強化した。米紙ウォールストリート・ジャーナルは、イスラエルの対外特務機関モサドのバルネア長官が16日、ハマスとの交渉を仲介するカタール首相とノルウェーで会談すると報じた。だが、イスラエルとハマス双方の不信感は強く、先行きは不透明だ。
15日にはハマス掃討作戦中のイスラエル軍の誤射で人質3人が死亡したことが判明。掃討を急ぐ軍が地下トンネル内に海水を注入する「水攻め」を始めたとも報じられ、トンネル内に拘束されているとされる人質の安否が気遣われている。