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鈴木多美子 外食産業のユダヤ系(上) マクドナルドやB&J 信念貫き 社会問題に声


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 ユダヤ人の創業者の多くは、貧困家庭の出身だった。その一人、マクドナルドの創業者レイ・クロック氏の両親は、チェコ系ユダヤ人移民。クロック氏は高校を中退し、さまざまな職業を転々とする。紙コップの営業マンとして成功し、ミルクシェークを作るミキサー販売会社を経営した。
 ミキサーの配達で訪れたカリフォルニア州の、マクドナルドと言うアイルランド出身の兄弟が営むハンバーガー店が、効率の良い運営をしているのを見てビジネスチャンスだと直感する。マクドナルド兄弟とチェーン展開の契約を結び、クロック氏は1955年にシカゴで第一号店を開店する。
 その後、マクドナルド兄弟から再度多額のフランチャイズ権利を請求されたり、店舗を増やすが資金繰りに苦しみ自転車操業の日々を送ったりした。クロック氏は朝から晩まで休む間も無く働き続けるが、商売は赤字続きだった。友人で後にマックの社長になる、同じくユダヤ人のハリー・ソナボーン氏にマクドナルド経営のアドバイスを受け加盟店との契約方針を変えたところ、運営がうまくいき、その後マクドナルドの権利を買い取りチェーン展開が進んだ。「信念と継続が全能、誰よりも働く事を楽しんだ」と、81歳で亡くなるまで精力的に働き、莫大(ばくだい)な創業者利益を得た。今やマックは、世界各地に4万店舗以上を展開している。
 個人的に商品と経営哲学が気に入っている企業が、1978年にバーモント州の小さな町のアイスクリーム屋から始まったベン&ジェリーズ(B&J)である。金なし、人脈なし、落ちこぼれだったベン・コーエン氏とジェリー・グリーンフィールド氏の二人は、家族経営牧場と契約した。「遺伝子組み換え牛に反対!」を唱え、人工成長ホルモンを使わず放牧の健康的な牛と平飼い鶏の卵を使い、人工着色料、甘味料、香料を一切使わず高品質で濃厚な味のアイスクリームを生産している。その安心・安全のアイスクリームは評判となって、今や世界38カ国に進出している。
 B&Jは開発途上国のバニラ、カカオ生産者、労働者の生活改善のためフェアトレード(公平な貿易)を提唱し、他にも気候変動、LGBTQ、黒人の権利を訴えるBLM運動など社会問題に声を上げる。米国内では、食品に遺伝子組み換えの原料のラベル表示を求めている。他にも酸性雨や森林破壊の問題に取り組み、地域コミュニティーの支援としてホームレスや障がい者など数々の社会問題をサポートするため、利益の一部を寄付している。
 さらに軍事費を1%減らして平和を実現する活動にまわす「1%フォー・ピース」運動を展開している。ベン氏は「私たち二人は誇り高きユダヤ人である。民主的なイスラエルの領域は認めるが、パレスチナの占領を違法的に維持するのは和平の障害で、占領下で暮らすパレスチナ人の基本的人権を侵し続けている」と訴える。そして社会性とビジネスの両立が企業の使命だと主張する。
 企業のモットーは「平和、愛、それとアイスクリーム!」。これほどまでに社会問題に取り組んでいる企業は他にはないだろう。あっぱれ!の一言である。賛同される方、ぜひB&Jのアイスクリームをお試しあれ。 (バージニア通信員)