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大川原化工機の捜査「違法」/立件固執 止まらぬ捜査/公安の危うさ露見


大川原化工機の捜査「違法」/立件固執 止まらぬ捜査/公安の危うさ露見 警視庁(上)、大川原正明社長(左下)、検察庁(右下)のコラージュ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 「大川原化工機」の社長らの起訴が取り消された外為法違反事件を巡り、東京地裁は27日、警視庁公安部と東京地検の逮捕・起訴を「合理的な根拠が客観的に欠如していた」と批判し、違法性を認めた。法廷では公安部員が捜査を「捏造(ねつぞう)」と証言。異例の訴訟で露見したのは、立件に向けた構図に固執し、消極意見があっても立ち止まらない捜査当局の危うい姿だ。 (19面に関連)

標的

 「中国のあってはならない場所に納入されていた」。大川原化工機の社員に対し捜査員が告げた言葉だ。同社は霧状の液体に熱風を当てて瞬時に粉末化する「噴霧乾燥装置」を中国や欧米などに輸出していた。軍事転用の恐れがあるとして経済産業省は輸出規制の要件を定めていたが、公安部はここに目をつけた。
 捜査関係者によると、中国に拠点があることなどを踏まえ、形式的な要件の逸脱ではなく外国勢力が関わる「外事容疑性」があるとの見立てで捜査は動き出した。ただ「あってはならない場所」がどこかは不明のまま。標的とした同社に対する捜査員の揺さぶりだった可能性がある。

言い訳

 規制要件の解釈で焦点となったのは「内部の滅菌または殺菌」が可能かどうか。可能なら外部に病原性微生物などが拡散せず作業員のリスクを避け生物兵器が造れるため規制が必要との理屈だ。
 公安部は専門家への聞き取りなどを踏まえ、装置内を高温にできれば殺菌できる装置で、規制対象に該当すると解釈した。だが、この要件は高温によるものか薬液による消毒かなど、経産省の解釈があいまいだった。大川原化工機の装置に薬液での消毒能力はない。また、装置内に高温になりにくい場所があることは、複数の従業員が社長ら逮捕の1年以上前から公安部に説明していた。
 「従業員の言い訳だ。信じる必要はない」「事件がつぶれて責任を取れるのか」。捜査員の証言によると、現場は従業員の説明に沿って実験するよう幹部に進言したが受け入れられなかった。地裁判決によると、公安部は従業員の指摘を供述調書にしなかった。地検はヒーターを外から付けるなどすれば殺菌可能との見解で突き進んだ。
 判決は「再度の温度測定は当然に必要な捜査だった」と指摘。逮捕・起訴を違法と断じた。虚偽の内容を記載した弁解録取書を作るなど、警視庁の取り調べに違法性があったとも認定した。

出直し

 関係者によると、ある内部文書が警視庁に存在する。それによると、検事は起訴直前「(要件の)解釈自体がおかしいという前提であれば起訴できない。不安になってきた」と漏らしていた。
 なぜ立ち止まれなかったのか。公安部幹部は「捜査は尽くせていなかったし、組織としての問題もあった」とする一方「経済安全保障の重要性を示す意義があった。『暴走』したわけではない」と釈明した。捜査当時の公安部長も「何も言えない」と話すだけだった。
 2010年に公安部から在日イスラム教徒の情報が流出した事件の弁護団だった井桁大介弁護士はこう非難する。「極左や極右などの事件が激減し、公安部は経済安保や国際テロなどの外事分野に存在価値を求めるしかなくなった。強引な捜査で重大な被害を生じさせたのに、反省の色は見えず、組織として解体的な出直しが必要だ。検察や長期勾留を安易に認めた裁判所も批判されるべきだ」