有料

「人間扱いされなかった」/ロシア受刑者の突撃部隊/十分な訓練、武器ないまま肉弾戦


「人間扱いされなかった」/ロシア受刑者の突撃部隊/十分な訓練、武器ないまま肉弾戦 「ストームZ」の兵士として戦闘に参加した経験を語るアルティオン=21日、ウクライナ西部の収容施設
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 ウクライナに侵攻するロシア軍が前線に投入する元受刑者らの突撃部隊「ストームZ」の兵士2人が29日までに共同通信の取材に応じ、十分な訓練や武器もないまま肉弾戦に放り込まれ、多数が犠牲になったと証言した。作戦もずさんで「人間として扱われなかった」と語った。ロシアの刑務所での国防省による勧誘の実態も明らかにした。
 2人は投降して捕虜となりウクライナ西部の収容施設でインタビューに答えた。ウクライナ当局は施設の場所を明かさない条件で取材を許可。当局者は同席しなかった。
 配送業を営んでいたアンドリー(36)はロシア西部スモレンスクで2011年、当時20代の知人男性が借金を返さないことに腹を立てておので殺害、禁錮19年の判決を受け収監された。
 国防省担当者が刑務所に現れたのは今年5月。6カ月間の軍務の代わりに出所を認め、月20万ルーブル(約31万円)の報酬を支払うと勧誘した。受け入れると、ロシア占領下のウクライナ東部ルガンスク州の基地に送られた。
 2週間半の訓練を受けた直後の6月3日、ストームZの一員として東部ドネツク州の激戦地バフムト北東のソレダルに送り込まれた。銃を持たされ、塹壕(ざんごう)にこもっていた同6日、敵が投げ込んだ手りゅう弾が近くで爆発。包囲されて投降した。
 アンドリーには内縁の妻と一人息子がいる。入隊した理由は「犯歴が消えて家族を養うカネがもらえるから。服役して出所しても、殺人者が仕事を得て社会に戻るのは難しい」。だが前線投入から3日で捕虜になり、報酬は払われていない。
 「プーチンがこの戦争で何を求めているか知らない。ただ家族の元に帰りたいだけ」。落ちくぼんだ目で力なく語った。
 モスクワ東方のウラジーミル州のトラック運転手アルティオン(34)は今年6月、隣人に車を壊されたことに怒って「首をへし折るぞ」と脅した罪で禁錮2年となった。収監から約1カ月後、国防省の担当者が健康な若い受刑者を集め、入隊を勧めてきた。犯歴は消え報酬も払われるとの触れ込み。初犯だったアルティオンは「自由になりたい」一心で応じた。
 西部ロストフ州で3週間ほどカラシニコフ銃の使い方などの訓練を受けた。ドネツク州で軍用車を修理する仕事と伝えられたが、実際は訓練直後の9月初旬、同州の激戦地マリンカに送られた。
 組み込まれたストームZの部隊は30人。歩兵戦闘車に分乗し、森林を抜けてウクライナ軍陣地を目指したが、道に迷い無人機攻撃や砲撃にさらされた。歩兵戦闘車は破壊され、戦闘初日で30人中21人が死亡したという。
 車両のわだちをたどり、攻撃を避け、はいつくばるように自軍拠点に戻った。銃も失ったが、上官は別の歩兵と再び前線に向かうよう命令。12人の小隊で向かったが、4人が殺害され退却した。
 10月10日、マリンカで待ち伏せ攻撃に遭い、仲間とはぐれて穴に潜んでいたところを囲まれて投降した。「ロシア軍ではわれわれは見下され、反論もできない。人間扱いされなかった。生き残ったのはくじに当たったようなものだ」と語った。
 故郷に残した妻と5歳の娘に会いたい―。月1回許される電話だけが慰めだ。最後にこう訴えた。「くだらない戦争を早く終わりにしてほしい」(敬称略、ウクライナ西部共同=小玉原一郎)