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故郷に後ろ髪、不安交錯


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 後ろ髪を引かれながら、バスに乗り込んだ。「2次避難」に向け、地震の被害が大きかった石川県輪島市から金沢市の施設に向かった被災者からは10日、「行政に感謝している」などと安堵(あんど)の声が上がった。一方、住み慣れた土地を離れる不安も交錯。「ここで死ぬ」と故郷に残る人もいた。
 10日午後、輪島市役所に横付けされたバスに大きな荷物を抱えた人たちが次々と乗り込んだ。寝たきりで、抱えられた人も。夫婦で避難する女性(84)は「行ったことがない土地だ」と心配そうな表情。移動先で治療を受ける家族を見送った40代女性は「また一緒に暮らしたい」と再会を願った。
 断水や停電が続く同市の黒島公民館では、避難者が灯油ストーブで寒さをしのぐ。地域から自治体に移動を要望し、今後バスが来る予定だ。赤坂佳子さん(71)は息子たちから「安全な所に行ってほしい」と言われ、移動を決めた。自宅は地震で大きく損壊しており「すぐに戻りたいが、住む所もライフラインもない」と複雑な胸中を明かした。
 ただ、身を寄せている100人余りの多くはとどまる意向を示しているという。中谷悦子さん(81)は若い頃に神戸で洋裁を習った以外、この土地を出ていない。「生まれて、育って、嫁いで、死んでいくんだ」。迷いは見せなかった。