イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続く中、米英両軍がイエメンの親イラン武装組織フーシ派への攻撃に踏み切った。フーシ派は国際海運の大動脈の紅海で商船を繰り返し襲撃。中東で戦火が広がらないよう腐心してきた米国も座視できず、軍事拠点を「限定攻撃」(米政府高官)した。反発するイランに他の反米勢力が呼応すれば、中東情勢の流動化に拍車がかかる恐れがある。 (3面に関連)
■負の連鎖
「大きな爆発音が何度か続き、街中に響き渡った」。イエメンの首都サヌアの男性(31)は電話取材に証言した。攻撃は現地時間12日午前2時ごろ始まり、別の住民も「爆発で夜空が照らされていた」と語った。
アラブの最貧国の一つであるイエメンで、フーシ派はサヌアをはじめ北部を実効支配する。イスラエルを敵視し、攻撃を受けるパレスチナ自治区ガザへの連帯を掲げ、昨年11月の日本郵船運航の貨物船拿捕(だほ)を皮切りに商船の襲撃を始めた。
米軍は商船を保護する多国籍部隊を発足させ警戒活動を続けてきた。だがフーシ派はひるまず、今月9日には無人機だけでなく対艦弾道ミサイルも投入して大規模な攻撃を仕掛け、バイデン米大統領が今回の攻撃を許可するきっかけになった。
「標的を厳選し、精密誘導兵器を使った」。米政府高官は抑制的な対応だったと記者団に説明した。過剰な反発を避けたい思惑がにじむが、フーシ派指導者のアブドルマリク・フーシ氏は攻撃開始前のテレビ演説で「米国の攻撃には立ち向かう」と宣言していた。
米高官は「われわれはさらなる措置をためらわない」として追加攻撃も辞さない考えを示唆し、負の連鎖が続く。
■特効薬なし
イスラエルとハマスの戦闘開始後、バイデン政権は後ろ盾のイランに対して、事態を悪化させないよう求めてきた。イランが技術や装備面でフーシ派を支援していると警戒しており、米政府高官は「イランがフーシ派の攻撃の全局面に関与している」と非難する。
イランは商船襲撃への関与を否定。同国軍事筋は参戦の意思はないと強調する一方、フーシ派から要請があれば「ミサイルと無人機を提供する用意がある」と明かす。別の外交筋は、レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラをはじめ「他の組織がフーシ派を支援することも予想される」とけん制した。
バイデン政権はウクライナ侵攻を続けるロシアや覇権主義的な動きを強める中国への対応も迫られ、余裕はない。11月に大統領選を控えており、外交に割ける力はなおさら限られる。
軍事行動を本格化すれば、中東で広がる反米、反イスラエル感情を刺激する恐れもあり、バイデン政権は難しいかじ取りを余儀なくされている。「特効薬はない」。米政府関係者は中東情勢の緊張緩和は見通せないと話す。(ワシントン、カイロ、テヘラン共同)