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沖縄舞台の映画「コザママ♪」 14年ぶりにメガホン ハルサー兼映画監督 中川陽介さんに聞く きょう公開


沖縄舞台の映画「コザママ♪」 14年ぶりにメガホン ハルサー兼映画監督 中川陽介さんに聞く きょう公開 農作業をする、映画「コザママ♪」の監督・中川陽介さん=糸満市(本人提供)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 ハルサー、時々、映画監督。20日公開の沖縄を舞台にした映画「コザママ♪ うたって!コザのママさん!!」の監督を務めた中川陽介さん(62)は、糸満市でトマトやインゲンを育てる農家だ。映画監督を辞めて2009年に沖縄へ移住した。今回、長編映画としては14年ぶりにメガホンを取った。

 中川さんは駆け出しの映画監督だった1990年代に、ノスタルジックな撮影地を求めて沖縄にたどり着いた。ノスタルジーを沖縄の街全体から感じたからだ。俳優らの配役に加え、街そのものを主人公とする映画を撮ろうとしていた中川さんは、映画の舞台を沖縄に絞った。

 デビュー作「青い魚」(1997年)はベルリン映画祭ヤングフィルムフォーラムの正式招待作品となり、鈴木京香さん出演の「真昼ノ星空」など、作品は全て沖縄が舞台だ。

 しかし、渡名喜島で撮影した長澤まさみさん主演の「群青 愛が沈んだ海の色」(2009年)を撮影した後、映画監督を辞めた。「プレッシャーでしんどくて、終わると抜け殻状態だった。映画はもういいやと思った」

 人生を模索し、農家になろうと決めた。その心を射止めたのはやはり沖縄だった。「都市と自然が近いところに引かれた」。名護の農業大学校で学び、農業を始めた。

 軌道に乗ってきた頃、師匠とあおぐ農家の言葉が胸に刺さった。「農業そのものを(人生の)目的にしてはだめだ」。農業は生活をするための一つの手段。人生を謳歌(おうか)し、彩り豊かに過ごそう。そのメッセージは中川さんを再び映画に引き寄せた。

 収穫が少ない夏は農業を休み、小説を執筆した。「唐船ドーイ」は新沖縄文学賞を受賞した。「小説を書いていると、その映像を見たくなる」。知人らと短編映画を撮り始めた。そして地域活性化に向けた映画の企画が舞い込んだ。

 完成したのが「コザママ♪」だ。高校時代に音楽で夢を追った女性たちが大人になり、かつて諦めた夢を追う物語だ。舞台は沖縄市、コザ。これまでの中川作品における沖縄は背景を借りる「借景」だったが、今回は物語も人物も沖縄だ。中川さんは「沖縄で生活して話を聞いていると、沖縄的なものが自分の血となり肉となったのかもしれない」と製作への思いを明かした。

 軸足を監督に戻したのかとの問いには「僕はハルサー」と断言した。「農家として生計を立てているから、映画も撮ることができる。両立は簡単ではないけれど、できないことではない。夢は捨てないで」と夢を追う人たちにエールを送った。

 「コザママ♪」はシネマQ、ミハマ7プレックス、シネマプラザハウスで上映する。

 (田吹遥子)