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フリースクール 発言が波紋 滋賀・東近江市長「国家の根幹崩す」 識者「多様な学び 保障を」


フリースクール 発言が波紋 滋賀・東近江市長「国家の根幹崩す」 識者「多様な学び 保障を」 滋賀県東近江市役所での記者会見で厳しい表情を見せる小椋正清市長=10月25日
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 「フリースクールは国家の根幹を崩してしまうことになりかねない」―。不登校対策を話し合う場で飛び出した滋賀県東近江市の小椋正清市長(72)の発言が議論を呼んでいる。フリースクール関係者らは「社会全体が関心を寄せる大事な一歩になった」と前を向く一方、「国が認める多様な学びについての理解がない」などの声も上がっている。
 「文部科学省がフリースクールを認めてしまったことにがくぜんとしている」。市長がこう切り出したのは、10月17日の県首長会議。2017年施行の教育機会確保法では「学校以外の場での多様な学習活動」の重要性が明記されているが、「フリースクールの存在をよっぽど慎重に考えないと公立学校の存在を否定することにつながる」などと持論を展開。不登校は親の責任だという趣旨のことも口にした。
 滋賀県フリースクール等連絡協議会は10月19日、市長に抗議文を提出。発言の撤回とともに、不登校の現状に対する正しい理解を求めた。盛山正仁文科相も同20日「望ましい発言とは考えていない」と苦言を呈した。
 10月25日になって市長は、配慮のない言葉で多くの人を傷つけたことを謝罪。ただ、発言には「信念を持っている」「文科省への問題提起だった」と撤回を拒否した。
 最低限の学力や集団内での対応力といった「幼少期に必要とされる教養」を身に付ける上での義務教育の意義を訴え、親が子どもを学校に行かせる努力が不可欠だと力説。不登校やひきこもりの子どもを受け入れるフリースクールはカリキュラムがない問題があると語った。
 「市長は時代の変化に追いついていない」とみるのは教育評論家の尾木直樹さん。教育機会確保法に従って「子どもに寄り添い、先を見通した教育を目指すことが大事だ」と訴えた。
 市には10月末時点で850件以上の意見が届き、うち約7割は批判的な内容だという。「一石を投じていただいたと思って前向きに捉えたい」とするのは協議会の柴田雅美会長。谷川知副会長も、不登校が当事者の問題とされがちな中で、関心のなかった人も巻き込んで考えるきっかけになったと意義を見いだす。
 文科省の22年度調査を見ると、小中学校を30日以上欠席した不登校の児童生徒は前年度比22・1%増の29万9048人と過去最多に。フリースクールを含む学校以外の場は受け皿としての役割を果たしている。
 名古屋大の内田良教授(教育社会学)は学校が息苦しさを感じる場所になっていると指摘。「学校教育を見直さないといけない。多様な学びの機会を保障するため、社会が受け皿をつくり、選択肢を増やすことが大事だ」との考えを示す。
 熊本大の苫野一徳准教授(教育学)は「学校の仕組みから排除されて苦しむ子どもを包摂できるよう、公教育をどんな子どもも受け入れられるシステムに変えていく必要がある」と話す。そして「そもそも教育とは何のためにあるのか。そこをしっかりと考えないといけない」と強調した。