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首相偽動画、広がる波紋 AI使い作成1時間 「軽い冗談」社会混乱リスク


首相偽動画、広がる波紋 AI使い作成1時間 「軽い冗談」社会混乱リスク 生成AIを使った岸田首相偽動画作成の仕組み
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 岸田文雄首相がニュース番組でみだらな発言をしたと見せかけた、人工知能(AI)による偽動画が交流サイト(SNS)で拡散し、波紋を呼んでいる。投稿した20代の男性は取材に応じ、動画や音声などを作る生成AIを使い、1時間ほどで偽動画を作ったと説明。「軽い冗談のつもりだった。ここまで大騒ぎになるとは想像していなかった」と明かした。
 男性によると、岸田首相の偽動画を最初に投稿したのは今年7月。日本テレビのニュース番組が報じた実際の映像を使い、みだらな発言を繰り返しているように加工した。投稿直後はそれほど注目されなかったが、11月に約3分半の長さに延ばして投稿すると閲覧数が急増した。
 男性は趣味で生成AIを使った動画を投稿していたが、岸田首相がAI研究者らと会合したニュースを見たのが偽動画作成のきっかけだった。出席者の話し声を首相の話しぶりそっくりに変えるAI音声変換ソフトウエアの実演を受けた際、首相の関心が低いように見えたため、「同じソフトで偽動画を作ってちゃかしてやろう」と考えたという。
 男性はインターネットに公開されている岸田首相の声をAIソフトに学習させた上で、自分でみだらなせりふを読み上げて首相に似せた声に変換した。日テレのニュース番組の画像をネットで見つけ、声に合わせて口元を加工するAIで動画に仕立てた。AIソフトの音声学習に2時間ほどかけたが、動画そのものは1時間ほどでできた。男性は「日テレに申し訳ないことをした」と謝罪した。
 生成AIの急速な進歩の裏側で、各国は高度な偽情報を危険視する。AIを使った海外の政治家の偽動画はSNSに多数、投稿されている。2022年のロシアによるウクライナ侵攻後、ゼレンスキー大統領がウクライナ軍に降伏を呼びかける偽動画が広がった。
 選挙戦を有利に進めるため、対立候補をおとしめる偽動画の作成にAIが悪用される恐れもある。松野博一官房長官は6日の記者会見で「偽情報の投稿は民主主義の基盤を傷つけ罪になる場合もある」と強調した。
 法政大の藤代裕之教授(ソーシャルメディア論)は「戦争や災害のような緊急時に、生成AIで作られた巧妙な偽動画を見抜くことは困難だ。事実かどうかを確認するファクトチェックでは到底間に合わず、利用者のリテラシーで対応するのは不可能だ」と指摘する。「ニュースの悪用は社会の混乱につながる。SNSやヤフーなどのプラットフォームに、投稿された内容が生成AIだと明示する仕組みが必要だ」と訴えた。