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不妊治療の現場 漫画に 「胚培養士ミズイロ」 夫婦の葛藤も描く


不妊治療の現場 漫画に 「胚培養士ミズイロ」 夫婦の葛藤も描く 漫画「胚培養士ミズイロ」から(ⓒおかざき真里/小学館)
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 夫婦で治療への考え方がすれ違い、心の中で思わずつぶやく。「『自然(妊娠)』って何?」―。体外で精子と卵子を受精させたり、胚(受精卵)を培養したりする医療技術者の胚培養士を中心に、不妊治療の現場をテーマに扱った青年漫画が注目されている。舞台は不妊治療専門クリニック。作者のおかざき真里さん(56)は「不妊治療の当事者だけでなく、その周りの人が気軽に読める一冊にしたい」と思いを明かす。

大学の講義で

 漫画は週刊ビッグコミックスピリッツで連載中の「胚培養士ミズイロ」。子どもを授かろうとクリニックを訪れる患者と胚培養士のやりとりを中心に物語は進む。がん治療前の高校生の卵子凍結や男性の無精子症など幅広く取り上げてきた。夫婦間の繊細な心理描写も共感を生んでいる。
 連載のきっかけは、薬学部出身の担当編集者島崎絢子さん(29)の提案だった。大学時代に講義で胚培養士の仕事を知り、前作を終えて題材に迷っていたおかざきさんに思い切って切り出した。「命の始まりに関わる大切な仕事。温めてきた企画だった」と振り返る。
 これまで働く女性の恋愛模様などを作品で描いてきたおかざきさんにとって、胚培養士は初めて聞く言葉。「やってみたいと思った」。大学生の長女の「お母さんが描くべきだよ」という言葉にも背中を押され、昨年10月に連載が始まった。

二人三脚

 胚培養士は「エンブリオロジスト」とも呼ばれる。医師が採取した卵子の培養や、精子の検査、受精卵の凍結保存などを担当。顕微鏡をのぞきながら精子を卵子に注入する顕微授精では、手先の器用さが求められる。二つの学会が認定するが国家資格ではない。
 連載にあたっておかざきさんらは二人三脚で複数のクリニックを回り、約20人の夫婦に取材を重ねた。撮影した写真は数千枚に上る。登場人物はオリジナルだが、各話のエピソードには実際の夫婦の話をちりばめている。「一日培養室に居て(胚培養士の)素早く無駄のない動きに驚いた」

諦めた先も

 漫画ではクリニックに通う40代俳優が妊娠に至らず、最終的に治療を諦めるエピソードも描いた。「諦めた先も人生は続いていく。お土産になる言葉を届けたい」という思いが込められている。
 「妻が内診台でこんな体勢を取っていることすら知らず、理解不足だった」「望んだ時に望んだ形で子どもが授かれるように知識を付けたい」。連載には多くの反響が届いた。おかざきさんは高校生の息子の言葉が忘れられない。「お母さんの漫画で一番面白かった」