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年度内デブリ採取 黄信号 福島第1原発 ロボアーム使えない恐れ 


年度内デブリ採取 黄信号 福島第1原発 ロボアーム使えない恐れ  東京電力福島第1原発2号機で溶融核燃料(デブリ)の取り出しに使うロボットアーム=2022年7月、福島県楢葉町
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 本年度内に開始予定の東京電力福島第1原発2号機の溶融核燃料(デブリ)採取に黄信号がともっている。廃炉の最難関とされる重要な作業だが、採取に使うロボットアームの投入口が堆積物でふさがり、想定以上に固着している恐れが出てきたからだ。代替策の検討も始めたものの、原子力規制委員会の審査が必要で「年度内開始は相当厳しい」と指摘された。

堆積物

 10月16日、ロボットアームを投入する原子炉格納容器貫通部のハッチを開くと、内側はセメントのような灰色の堆積物で埋まっていた。事故時の高熱で内部にあったケーブルなどが溶けて固まったものとみられる。東電はある程度の堆積物は想定し、高圧水を噴射して吹き飛ばすつもりだったが「想定以上に固着しているかもしれない」と危機感をつのらせる。
 予兆は6月からあった。ハッチを留めているボルト24本の取り外しを始めたが、一部は固着して動かせなかったからだ。関係者によると、この頃に簡易的な伸縮式パイプの検討を始めた。結局、ハッチの開放作業は予定より約5カ月長引いた。
 2017年に開発を始めたロボットアームは最長約22メートルに伸び、18カ所の関節で複雑な動きが全自動で可能。当初は試験的にデブリ1グラム程度を数回採取するだけだが、段階的に採取量を増やしていく。放射線にも強く、機器を使って容器内の調査もできる。
 一方でパイプは最長約12メートルで、先端からデブリ採取器具をつり下げる。19年2月、2号機の調査で使用され、デブリの持ち上げに成功した実績がある。しかし作業範囲や採取量は限られ、詳細な調査もできない。

場当たり的

 東電の小野明廃炉責任者は「取り出しのメインはアームだ」と述べ、時間はかかっても堆積物を除去してアームを使う方針を強調する。どちらの方法にせよ、本年度内の取り出し開始目標は変更しないとしている。
 しかしパイプを使うには原子力規制委員会の審査を受ける必要がある。10月5日の規制委の会合では「パイプだと放射性物質の閉じ込めや作業員の被ばくをしっかり審査する必要がある。速やかに審査申請しても相当厳しい」との指摘を受けた。東電によるとパイプからつり下げる装置は新たに開発し、操作訓練も必要だ。
 当初、デブリ取り出しは21年中に開始する予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響や、アームの改良に時間がかかり、すでに2度延期している。
 アームの開発は国の補助事業で、一部国費も投じられた。英国で製作が進められ、作業員は緻密で高度な遠隔操作技術を習得するための訓練を重ねてきた。開始目標時期が迫る中での工法見直しに、政府関係者は「場当たり的な対応だ。もっと早い段階で方針転換できなかったのか」と東電の姿勢を批判する。