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収入目当てに過激化 ユーチューバー 私人逮捕系 識者「見る側の自制心重要」


収入目当てに過激化 ユーチューバー 私人逮捕系 識者「見る側の自制心重要」 杉田一明容疑者が「煉獄コロアキ」の名前で活動していたユーチューブチャンネル
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 公演チケットを不正転売しているなどとして無関係の女性を追い回す動画を投稿したとして、名誉毀損(きそん)容疑でユーチューバーの男が逮捕された。こうした動画は「私人逮捕系」と呼ばれ、近年インターネット上にあふれている。再生回数に応じ広告収入が得られるため、アクセス増を目指し内容が過激化していく傾向がある。需要があるからなくならない―。識者は見る側の自制心も重要だと指摘する。
 逮捕されたのは杉田一明容疑者(40)で、「煉獄(れんごく)コロアキ」と名乗り「世直し系」を自称。チケットを高額転売しようとしたとして一般の人を私人逮捕したとする動画を複数投稿していた。
 条件はあるが刑事訴訟法は、現行犯は誰でも、つまり警察官などでない私人でも逮捕できると規定。電車内の痴漢を目撃した客が犯人を取り押さえる例などが該当する。
 私人逮捕系の投稿者はこうした規定を踏まえ、自身の行為を合法だと解釈しているようだ。ただ杉田容疑者の事件の被害女性が転売に関与した事実は確認されていない。「冤罪(えんざい)」を生む恐れや、たとえ事実であっても投稿者が名誉毀損罪に該当するケースもある。
 違法となるリスクがあってもこうした動画が後を絶たない理由の一つが収益だ。ユーチューブは投稿者が動画につく広告から収入を得られる仕組みがあり、再生回数が多いほど金額も増える。杉田容疑者も「再生回数を増やし、収入を得て有名になりたかった」という趣旨の供述をしている。
 国際大の山口真一准教授(社会情報学)は「私人逮捕系のほか、暴露や迷惑行為といった過激なコンテンツへの需要は一定、存在する」と話す。
 実際、別の投稿者が駅で女性を盗撮した男を取り押さえたとする動画には「応援しています」「どんどん捕まえて」といったコメントが並び、30万回以上再生されている。
 山口氏は「大勢の視聴で承認欲求を満たすのと、金銭的利益が組み合わさり投稿者の強いインセンティブ(動機づけ)になっている。過激動画は手を替え品を替え出てくるだろう」と分析。その上で「1本の動画を見ると似たものが次々とおすすめ欄に出てくるなど、ネット上で得る情報はバイアスがかかりやすい。視聴する側も、常に自分は偏ったところにいると自覚する必要がある」と警鐘を鳴らした。

 〈用語〉 ユーチューバー 米インターネット検索大手グーグルが運営する動画投稿サイト「ユーチューブ」に自分が制作した動画を頻繁に投稿する人。動画の再生回数に応じて広告収入を得ることができ、職業ともみなされる。ネット環境が整っていれば、誰でも映像を簡単に投稿できるため自己表現の場としても参加する人が増えている。一方で動画を巡るトラブルや犯罪も起きており、差別や憎悪をあおる内容が問題となるケースもある。