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特支生徒増、廊下で授業も 学びの場 拡充急務 「隔離」見直し求める声も


特支生徒増、廊下で授業も 学びの場 拡充急務 「隔離」見直し求める声も 全国の特別支援学校の児童・生徒数と全国の小中高生
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 障がいがある子どもが通う特別支援学校の生徒数が増加し、自治体や学校が教室の確保に追われている。群馬県内では廊下で授業を行う学校もあり、態勢の拡充が急務だ。ただ国際的には、障がいにかかわらず一緒に学ぶ「インクルーシブ教育」が主流に。専門家は「特別支援教育が当たり前になってしまうと、あるべき姿から遠ざかるのではないか」と懸念する。

◇1.5倍

 「やった、その歌好き!」。同県伊勢崎市の県立伊勢崎特別支援学校で10月行われた音楽の授業。子どもの歓声が上がった場所は1階廊下だ。小学5年の計10人が教室から椅子を持ち出して童謡に耳を傾け、感想を述べ合う。一方、音楽が学校中に響き、教室内で別の授業を受ける子どもが集中を乱すこともあるという。
 同校には小1~中3の計167人が在籍。10年で約1・5倍に増え、廊下では体育の授業や運動会の練習も行う。校舎は老朽化が目立ち、県は一部を改築して高等部を新設する方針だが、実現は2027年度と遠い。
 文部科学省によると、全国の小中高生数が減少する一方、特別支援学校の児童生徒数は年々増え、今年5月時点で計15万人余りとなった。21年10月時点で全国の公立特別支援学校で計3740の教室が足りないという。
 生徒増を受け、学校再編の動きも。金沢市の石川県立いしかわ特別支援学校は高等部の一部を市内の普通高校の敷地内へ移転、一部の授業は共同で実施する方針だ。転校を余儀なくされる生徒がおり、保護者らは環境の変化に配慮を求めている。

◇分けない

 ただ、拡充の方向性には議論が残る。国連の障害者権利委員会は昨年9月、障がいがある子どもが分離されているとして、特別支援教育の中止を日本に勧告。文科省は「可能な限り共に教育を受けられるように整備する」とするが、永岡桂子文科相(当時)は勧告後の記者会見で「中止は考えていない」と述べ、現状維持を前提とした。
 同省は生徒が増加した理由について「障がいや特性に応じた教育への理解が広まった」と話す。しかし、当事者団体には勧告後も「地元の小学校に入りたいが、教育委員会が認めない」との相談が絶えず、特別支援学校を積極的に選んだとは言えないケースも含まれそうだ。
 「インクルーシブ教育の肝は、クラスなど常に一緒にいる集団を障がいの有無で分けないことだ」。こう解説するのは、東京大の小国喜弘教授(教育史)。学校教育段階で居場所を分けることは「障がいがある人を隔離する社会の入り口となる恐れがある」と危ぶみ、区別せずに学べる環境整備や人材育成へかじを切るよう促した。