〈ドクターのゆんたくひんたく〉162 子どもの自傷行為への対応 「心のけが」に目を向けて


〈ドクターのゆんたくひんたく〉162 子どもの自傷行為への対応 「心のけが」に目を向けて
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 子どもが転んでけがをして、泣いているのを見つけたら、どうしますか? そばに行って「大丈夫?」と声をかけます。手当てをして、子どもが泣きやんだ後に「どうしてけがをしたの?」と聞くでしょう。大きなけががあれば、病院を受診します。

 リストカットのような自傷行為は「目に見える心のけが」と言われます。体のけがと違い、大人が対応に慣れておらず、さらに傷つけてしまうことがあります。よくある失敗は、何とかしようと思うあまり、「命を粗末にしている」「親からもらった体を傷つけるのはよくない」と、大人の感情や考えを押しつけてしまうことです。

 自傷行為の背景はさまざまですが、大きな要因は二つあります。一つは「心が傷つく体験」。いじめや虐待はもちろん、成績が伸びない、人間関係のプレッシャーなど思春期に多い悩みもあります。人によってはささいなことでも、本人にとっては大きな問題です。二つ目は「助けを求められない」。相談できる相手がいない、相談することが苦手など、助けを求めることができずに、限界まで追い込まれてしいます。生きているつらさが積み重なるうちに、唯一の対処として自傷行為に行き着きます。その意味では、「生き延びるための方法」とも言えます。

 具体的な対応として、自殺予防で用いられる「TALKの原則」を紹介します。Tell(話す)、言葉に出して心配していることを伝える。Ask(尋ねる)、傷つけたい、死にたい気持ちを率直に尋ねる。Listen(聞く)、ただひたすら本人の話を聞く。Keep safe(安全を守る)、新たな心のけがから守る。

 支援の第一歩は「話してよかった」「また話したい」という気持ちを高めることです。自傷行為をやめさせることではなく、心のけがに目を向けることが大切です。すべての大人が上手に対処できるわけではないので、大人も困ったときは助けを求めましょう。医療機関をはじめ、学校や地域の心理の専門家に相談してください。

(石橋孝勇、琉球大学病院 精神科神経科)


 「健康エッセー・ドクターのゆんたくひんたく」はこれまで第2・第4水曜掲載でしたが、今月から第5水曜を除き毎週掲載します。