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毅然さ、組織体質に風穴/陸自性暴力 有罪判決/異例の実名告発、共感の輪


毅然さ、組織体質に風穴/陸自性暴力 有罪判決/異例の実名告発、共感の輪 判決後、大勢の報道陣に囲まれる五ノ井里奈さん(左端)=12日午後、福島地裁前
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 元自衛官五ノ井里奈さん(24)に対する陸上自衛隊内の強制わいせつ事件は12日、被告の元自衛官3人全員に有罪判決が言い渡された。異例の実名告発から始まった切実な訴えは防衛省の特別防衛監察につながり、ハラスメントを容認する組織の体質に風穴をあけるきっかけとなった。性被害に対する毅然(きぜん)とした言動に共感の輪が広がる一方、被害者が声を上げづらい状況に変わりはない。有識者は「対策の本気度が問われるのはこれからだ」と話す。

重い腰

 「3人や自衛隊に心から反省してほしいとの思いで闘ってきた。被害を声に出せない、闘えない人もたくさんいるので、今回の判決が抑止力になればいいと思う」。五ノ井さんは判決後、福島市内で取材に応じ、今後への波及効果に期待した。
 これまでの道は苦しかった。事件当時、上司に訴えた被害は事実関係も調査されないまま「黙殺」の状態に。防衛省の重い腰を上げさせたのは退職後の実名告発だった。
 全自衛隊員を対象に昨年9月から実施された特別防衛監察で今年8月時点の被害申告が1325件に及んだのは、パワハラやセクハラの常態化をうかがわせる。「五ノ井さんが自らの人生を犠牲にして声を上げるまで、防衛省・自衛隊はハラスメント根絶に動かなかった。この組織に自浄作用はない」。ある自衛隊幹部はうつむいた。

右肩上がり

 組織の閉鎖性に立ち向かった五ノ井さんの姿勢は海外からも反響を呼んだ。英BBC放送は「性的虐待の被害者が声を上げれば激しい反発に直面する男性優位の社会では、困難なことだ」として2023年版の「100人の女性」に選出。米誌タイムも同様に「次世代の100人」としてたたえた。
 外部への被害相談も増加している。自衛隊のハラスメント問題に取り組む弁護士グループ「自衛官の人権弁護団」によると、五ノ井さんの告発後、新規の相談は昨年102件、今年は145件(12日時点)と右肩上がりだ。特別防衛監察後は「被害を申し出たことが所属部隊でうわさになり、かえっていじめられた」との相談も相次ぐ。
 代表の佐藤博文弁護士は「ハラスメント撲滅を唱えても、被害者保護が徹底されなければ申告することすら難しい。本気度が問われるのはこれからだ」とくぎを刺す。

紙一重

 類似の職場内ハラスメントは自衛隊に限った被害ではない。性犯罪被害者の支援に取り組む上谷さくら弁護士は「男性社員が飲み会でズボンを下ろされた」などの例は枚挙にいとまがなく、性別にかかわらず被害は起こりうると指摘。事件化されるかどうかは紙一重だとして「加害者にならないためには、先輩や上司の発言をうのみにせず、本当にそれでいいのかと立ち止まって考えることが重要だ」と話す。