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徳島の酒蔵 止まらぬ挑戦/商品名は「ネコと和解せよ」 音楽聴かせて醸造…/存続危機から唯一無二へ


徳島の酒蔵 止まらぬ挑戦/商品名は「ネコと和解せよ」 音楽聴かせて醸造…/存続危機から唯一無二へ 三芳菊酒造の馬宮亮一郎代表取締役=12月12日、徳島県三好市
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 「ネコと和解せよ」「残骸」「ワイルド・サイドを歩け」。ユニークな商品名とポップなラベルで、日本酒の見方を変える酒蔵が徳島にある。面白いのは名前や見た目だけではない。なんと酒に音楽を聴かせるなんてことも。造っているのは創業130年を超える酒蔵。存続の危機にひんしたものの、新たな形を模索している。
 徳島県西部の三好市は、かつて「四国の灘」と呼ばれるほど酒造りが盛んだった。三芳菊酒造はその三好市で1889年に創業し、現在も続く酒蔵の一つ。杜氏(とうじ)の馬宮亮一郎代表取締役(56)は東京で音楽活動をしていた25歳のころ、実家の酒蔵の経営が厳しいと知り、悩んだ末に継ぐことを決めた。
 当時の日本酒と言えば淡麗辛口。甘酸っぱい三芳菊が全国区に参入する隙はない。日本酒通からは「20点」「失敗作」など、否定的な評価ばかり。しかし、「無関心よりはいい」と思い造り続け、着実にファンを増やしてきた。
 馬宮さんに2024年のプランを聞くと、次々と返ってきた。まず、22年に造った音楽を聴かせる酒を、大手IT企業や音響メーカーの協力で24年も造る。ロマンで聴かせるわけではなく、タンクにスピーカーをつけ振動を発生させることで、酒造りの工程でかき混ぜやすくなるという効果もある。これを応用し、夏の天候不順で硬くなった米も使いやすくならないか検討している。
 海外での日本酒人気の高まりを受け、インバウンド(訪日客)向けに、酒造りを体験できる小規模ホテルも計画中。使っていない屋敷を改造する予定だ。さらに三好市には、霊峰・剣山がある。山岳信仰や山に伝わる伝説と結びつけた酒も出せたら…と夢は止まらない。
 「日本酒は職人気質な世界。奇をてらったものは良くないという風潮もあるが、それが正しいとも思えない」と馬宮さん。「まず日本酒を手に取ってもらいたい。自分が良いと思うもので続けていきたい」。24年は、どんな年になるだろうか。