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貧困の連鎖を断ち切るには 「幸福追求、諦めさせない」 浦添でシンポジウム 沖縄


貧困の連鎖を断ち切るには 「幸福追求、諦めさせない」 浦添でシンポジウム 沖縄 パネル討論に耳を傾ける来場者ら=8月29日、アイム・ユニバースてだこホール(提供)
この記事を書いた人 Avatar photo 嶋岡 すみれ

 おきぎん経済研究所(垣花秀毅社長)は8月29日、創立20周年記念として「沖縄の子どもの貧困シンポジウム」を浦添市のアイム・ユニバースてだこホールで開いた。行政職員や企業、NPO関係者、学生など約130人が来場。貧困の連鎖を断ち切り、沖縄の子どもたちの暮らしや成長を支えるために必要な取り組みについて、それぞれの立場から考えた。基調講演は琉球大の本村真教授が登壇し、パネル討論では、社会起業家で「うなぁ沖縄」代表の玉城直美さんが司会を務めた。物価高騰の影響や「体験格差」の解消に向けた取り組みと課題についてパネリストが報告した。当日の内容を詳報する。

(嶋岡すみれ)


 本村 真氏

【基調講演】本村真氏(琉球大教授)
幸福追求 諦めさせない 地域の関心、支援がカギ

 「子どもの貧困」を理解する上で「低所得」と「貧困」は分けなければいけない。経済政策などで親の所得が上がって解決するのが「低所得」。それとは別のアプローチが必要なのが「貧困」だ。

 「子どもの貧困」を解決するためには、幸福追求の基盤となる「自己肯定行動」を育むことが大切だ。自己肯定行動に関連する特徴を二つの色に分けて説明するために「(1)チャレンジで きる(2)踏ん張れる(3)必要な助けを求められる(4)自分を大切にできる」状態を黄色、「(1)何事にも興味がない(2)諦めが早い(3)困っていても何もしない(4)自分を粗野に扱う」状態を青色とする。貧困の解決のためには、青色(貧困)の状態の子を放っておかないことが大切だ。

 青色の特徴が増えてきて、その子が本来持っている可能性が発揮できない状態になると、義務教育で身に付けられることが減り、さらに自己肯定行動の低下につながる。

 そもそも親など養育者が黄色の状態であれば、子どもも黄色をキープできる。本来8割以上の子どもは黄色の要素を持って育つ。自然と「自分の将来を良くしたいな」と思う。それが幸福追求のベースになる。親も子どもを満たすために必要なお金や時間をかけることができる。

 だが親自身も青色や黄色が薄くなっているような状態だと、子どもも青色になる。青色になると「自分が幸せになれる」ということ自体を諦めてしまう。これが貧困の一番深刻な部分だ。黄色の人には気づけない、しんどさや惨めさが積み重なっていく。

 そういう子はだんだん学校からいなくなる。小中高で青色になって、縁あって子どもを授かれば、そのまま子育てをスタートするかもしれない。(青色の状態を)40~50年のスパンで考えると、子どもが青色になるのは「努力不足」や「自己責任」とはとても言えない。

 こうした貧困の連鎖を止める上で重要なのは、カロリーも含む「生理的エネルギー補給」と、気持ちを受け止めてもらったり、自分が関心を持っていることについて気にかけてもらったりする「心理的エネルギー補給」を可能とする環境だ。

 青色の状態の子は、この二つのエネルギー補給が家庭や学校でできない。地域で補給できるよう仕組みを整えていく必要がある。その手段として、生理的エネルギー補給は所得向上、経済的支援、食料支援などがあり、心理的エネルギー補給はアウトリーチ支援、子どもの居場所などがある。

 低所得だけなら子どもが黄色で育つ可能性はある。だが低所得は相当なストレスだ。子育てに必要な費用を行政が補助するなどして、黄色の状態で踏ん張っている親が青色にならないように予防する必要もある。

 地域は網の目のようにつながっている。「子どもの貧困」に関心を持ちつつ、お互いに自分のできる範囲で誰かの「エネルギー補給」を行えば、それが一つのきっかけとなって、低所得や貧困状態にある子ども、その親の支援につながる。

 青色の状態の子を放っておかないのが「誰一人取り残さない社会」だ。同じ沖縄という地で生まれた子どもたちが、幸福を追求すること自体を諦めずに18、19歳を迎えられるような社会がいいのではないか。「子どもの貧困」を解決するために、地域で関心を持つ人が増えるといいなと思う。


【パネル討論】支援者側 支える仕組みを 体験保障 県全体で考えて

 パネル討論では行政や企業、メディア、支援団体の代表者らが登壇し、「子どもの貧困」の解決に向けて必要な取り組みや現場で感じる課題、「体験格差」の問題などについて話した。

 浦添市立児童センター2館を指定管理者として運営する一般社団法人「まちづくりうらそえ」は、子どもたちに食事提供や学習支援をしてきた。大城喜江子代表理事は「目的は子どもたちが社会に出て働いて生活できるような大人になることだ」とした上で、「食事支援などはその手段であり、『目的と手段を間違えないでやろう』というのが私たち職員で共通していることだ」と説明した。

 学校や学童などと連携し、地域で子どもたちを見守り続けて10年。「校長先生など誰が変わっても(見守りが)できるという体制づくりはかなり重要だと思う」と指摘した。

 また、子どもを支える職員の職場環境についても言及。「自分たちの状態がよくなければ子どもと向き合えない。職員が笑えるような環境があることで子どもたちのよりよい支援につながる」と支援者側を支える仕組みに目を向ける必要性も強調した。

 休眠預金を活用した部活動の派遣費助成などを実施している公益財団法人「みらいファンド沖縄」の小阪亘代表理事は「(県外への派遣費がかかるのは)沖縄の社会問題だ。小中高時代の活動体験がコミュニティーや対人関係を育んでいくところもある。全ての子どもたちに機会が保障されるような社会にできないかと取り組んできた」と話した。

 一方、支援を続けていく上で資金の調達が課題となることから「地域を支えるようなお金の在り方を一緒に考えられたらと思う」と述べ、沖縄の子どもたちの体験を保障するために今後県全体で考えるべき問題について言及した。