親に代わり家族の世話や家事をする子ども「ヤングケアラー」への理解を深めようと、県はこのほど那覇市の県立博物館・美術館でシンポジウムを開いた。コーディネーターや元当事者などが登壇した。早期に適切な支援につなげるために、子どもの違和感を見逃さず、声かけをすることの重要性を訴えた。
県が2022年に実施したヤングケアラーの実態調査では、世話をしている家族が「いる」と回答した児童生徒(小5~高3)は小学生で13.1%、中学生で11.5%、高校生で8.5%だった。家族のケアで日常生活に影響が出ていて、支援が急がれる子どもは1.8%(約2450人)だった。
県ヤングケアラー・コーディネーターの石川七恵さんは、県の調査結果を基に「40人学級だと2~3人くらい早期の支援が必要な子がいる。実は身近にいると知ってほしい」と訴えた。その上で「ヤングケアラーが自らSOSを出すのは難しい。日常的に『かもしれない』の視点を持ち、違和感を見逃さないでほしい。大人の気づき、声かけが支援開始の入り口だ」と強調した。
元ヤングケアラーから寄せられた声も紹介した。周囲からのうれしかった言葉は「話してくれてありがとう」「難しいけれど、一緒に考えよう」などだった。一方で、嫌だった言葉は「しっかりしてね」「助けてあげてね」「頑張れ」などが上がった。
石川さんは「大人主役の支援ではなく、子どもを中心とする世帯支援の検討が大切だ。『自分が声を上げることで、家族を助けてもらえるかもしれない』と感じてもらう声かけが必要だ。まずは話を聞いてあげて」と呼びかけた。
元当事者として登壇した瀬良垣りんじろうさんは、統合失調症の母と過ごした生活を振り返った。10代の頃は母親中心の思考になり進路や就職先の選択肢を狭めたことを明かした。「自分の選択に後悔はないが、子どもの夢の光を消さない、諦めさせないためにどう支援するかも課題だ」と指摘した。今ヤングケアラーとして懸命に生活する子どもたちには「どんなにつらく、苦しくても、絶対に悪の道へ入り込まないこと。この先必ず道は開ける」とメッセージを送った。
親に代わって幼い妹たちの世話をし、母親の育児放棄(ネグレクト)や養父の暴力などから逃れて養護施設で育った玉城歩さんも元当事者として登壇した。玉城さんは養護施設の職員からの応援や支援を受けて進学し、今は保育士をしている。
過去を振り返りながら「長い年月をかけて、今は苦しみから解放されている。たくさんの優しさや声かけがあって今、生活できている」と感謝した。
その上で「暗闇の中で光を見つけ出すのはすごく難しいし、苦しさはなかなか言い出せない。『大丈夫?』『聞くよ』といった声かけから支援につないでいけると思う」と話した。
シンポジウムでは沖縄大の名城健二教授と、一般社団法人「ヤングケアラー協会」代表理事の宮崎成悟さんも講演した。
(嶋岡すみれ、玉城凪姫)