「解体的出直し」遠く 内部登用、社名維持に疑問も


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 ジャニー喜多川氏の性加害を認めたジャニーズ事務所は、東山紀之氏(56)を新社長に起用した。“ファミリー”の長男格タレントという身内がかじ取り役を担う形となり、外部専門家の再発防止特別チームが求めた「解体的出直し」には程遠い。
 7日午後、東京都心のホテルで開かれた記者会見。よどみない口ぶりで喜多川氏の性加害を認め、謝罪した東山氏。だが質疑応答になると弁明が苦しくなった。身内からの社長登用は「解体的出直し」とは言えないのでは、と問われ「8月29日に提言をいただき、できる作業には限界もあった」。生煮えの対応だと認めざるを得なかった。
 同族経営で風通しが悪い「負の『企業風土』」があると指摘された同社。藤島ジュリー景子前社長も、100%保有したままの同社株をどうするのかを問われ「同族経営の弊害は認識しているが、簡単な話ではない」。
 社外の経営者登用も模索したとみられるが、調整は不調に終わったようだ。東山氏は「外から来た方がタレントとコミュニケーションを取るのは難しい」と釈明した。
 タレントをCMに重用してきた企業からは、厳しい声が上がる。
 東京海上日動火災保険は広告契約の解除を検討。日本航空は当面、所属タレントの広告起用を見送る。木村拓哉さんがCMに出演している日産自動車は、外部専門家の提言を受け「提言内容を真摯(しんし)に受け止めて企業統治の改善を、スピード感を持って進めるよう事務所に申し入れた」という。
 喜多川氏を想起させる現社名を維持するとした同事務所。別のスポンサー企業の関係者は「もっと厳しい内容が出てくると思っていた。普通の企業の常識では考えられない対応だ」と突き放す。
 番組制作で密接な関係だった在京キー局幹部も「解体的出直しを求められたのに視聴者やスポンサーは『これで本当に大丈夫なのか』と疑問を持つだろう」と懸念した。
 ただ芸能界からは安堵(あんど)の声も漏れる。ジャニーズ事務所と取引がある芸能関係者は「タレントを取りまとめて事務所を存続させる意味で慎重な東山さんは適任だ」と評価。ラジオ局関係者は「東山さんは旧経営陣と近い。よそから誰かがやってきて仕事が大きく変わるようなことはないようでホッとした」と漏らす。
 タレントが事務所を退所する動きは収まらず、ライバルとなる他社のボーイズグループの追い上げも激しい。しかし別の芸能事務所の関係者は、番組によってはジャニーズ以外のタレントの出演に「今も壁を感じる」と明かす。「芸能界の構造が大きく変わる契機になればいい。ある意味でチャンスだ」と意気込む。
 広報・危機管理コンサルタントの大森朝日さんは、新社長は「当事者である内部ではなく、外部から登用すべきだった」と指摘。社名を維持したことも「これほどの不祥事で、創業者の名前に嫌悪感を抱く人もいるだろうに違和感がある」。
 喜多川氏の性加害を「人類史上最も愚かな事件」と言い放った東山氏。大森さんは「大仰な言葉遣いばかりで当事者意識が希薄な印象だった」。
 会見を中継で見守った「ジャニーズ性加害問題当事者の会」の平本淳也代表は「劇場型の会見でさすが俳優さん。おっしゃったことが飾りやうそでないことを願う」とくぎを刺した。